■アメリカ東海岸音楽便り〜ボストン響のコンサート・レポートを中心に

2002-2003 シーズンを振り返って
ミドリさんのシベリウスのバイオリン協奏曲Part 1
(ボロボロだったボストン響)

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February 15, 2003 8:00 PM

Alan Gilbert, conductor
Midori, violin
Boston Symphony Orchestra
Symphony Hall
Boston, MA

KIRCNER : Music for Orchestra II
SIBELIUS : Violin Concerto
SCHUMANN : Symphony No.3, Rhenish

このコンサート、待ちに待ったコンサートでした。なぜなら私たち夫婦がもっとも愛するシベリウスのバイオリン協奏曲がプログラムに含まれているからです。私たちのこの曲の刷り込みというべき愛聴盤はチョン・キョン・ファさんの演奏によるものですが、ミドリさんの演奏も負けず劣らず素晴らしいです。五嶋みどりさんは母国日本よりどちらかというと海外の方が高く評価されているバイオリニストではないでしょうか。こちらではちょっと音楽を聴く人ならばみなその名前は知っているようです。そのことには彼女の素晴らしい演奏だけでなく献身的な慈善・教育事業によるところも大きいのでしょう。プログラムにはラストネームの表記はなく、『Midori』とだけ記されています。

ミドリさんは薄い緑色の比較的地味なドレス姿で現れました。その姿は小さく華奢で、最初私たちが座っている最後部の座席まで音が届くのだろうかと心配しました。しかしそれは全く杞憂でした。第一楽章の出だしは、オーケストラのピアニシモのさざ波に乗ってバイオリンソロが登場しますが、彼女は状態をやや前屈みにし、慈しむように音を発しました。その最初の出だしを聴いたとたん私は今日のこの演奏会が素晴らしい物になることを確信したのです。その確信は後に予想もしなかったことで裏切られることになるですが・・・

彼女はある時は上半身を極度に前屈みにし、ある時は仰け反り返るようにしながら、全身全霊をもって演奏していました。その彼女のバイオリンから出てくる音はチョン・キョン・ファさんと比較するとあのような危ういと感じるまでの突っ込み方には欠けるものの、もっと厳しい透徹したものを感じさせくれます。それが曲想にもあって素晴らしいです。それに変化が現れてきたのは第一楽章後半。どうもオーケストラがまずいのです。ミドリさんが乗りに乗って弾いてくるほどオーケストラとの距離が離れていくのです。第二楽章もミドリさんが感じきって演奏しているのにオーケストラの方は全く感じていません。そのギャップは聴いていて悲しくなるほどでした。彼女の集中力もオーケストラに足を引っ張られこの楽章、そして第三楽章初めの方は削がれたようでした。第三楽章、出だしの弦とティンパニの刻みからして、なんという鈍い音、気の入っていない音でしょうか。素人耳にもずれています。ミドリさんはさぞかし弾きにくかったのでないでしょうか。その後も全然かみ合いません。どうも自分の番に出ることの出来ない奏者も一人や二人ではなかったようです。音が抜け落ちてゆきます。指揮も音が出て後からついていくような感じで崩壊寸前です。私はこの曲の演奏の難易度についてはよくわかりませんが、今日はこのプログラムを演奏して三日目のはず。まだ意思統一がはっきり出来ていなかったのでしょうか。オーケストラだけでなく統率し切れなかった指揮者の責任が大きいと思います。第三楽章後半再びミドリは輝きを取り戻し、素晴らしいソロを聴かせましたが、ミドリさんが輝くほどオーケストラとの距離は離れ惨めでした。

後半はシューマンの交響曲第三番《ライン》です。特別なものはありませんでしたが危なげない演奏であったとは思います。それだけに余計に前半のシベリウスは何だったのかという疑問が残ります。この演奏を聴いた後、もう一度彼女の演奏を他のオーケストラ、他の指揮者でも聴いてみたくなりました。彼女の演奏を支えることが出来たなら素晴らしい名演が生まれるはずです。

《私のお気に入りCD》

CDジャケットシベリウス:バイオリン協奏曲
ブルッフ:スコットランド幻想曲
バイオリン演奏:五嶋みどり
ズービン・メータ指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
SONY RECORDS(国内盤 SRCR 9651)

 冒頭にも書きましたがこの曲にはミドリさんの素晴らしい演奏があります。ミドリさんのバイオリンは確かに線が細いところも感じられますがシベリウスではそれが決してマイナスとなっていません。第二楽章が特にお気に入りです。


(2003年5月17日、岩崎さん)

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