■アメリカ東海岸音楽便り〜ボストン響のコンサート・レポートを中心に

NYの教会でヘンデル《メサイア》を聴く

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ニコラス・マックゲガン指揮ニューヨーク・フィルハーモニック

2003年12月18日 午後7時30分〜
ニューヨーク州ニューヨーク、リバーサイド教会

ヘンデル:オラトリオ「メサイア」

ローズマリー・ジョシュア(ソプラノ)
アリス・コーテ(メゾ・ソプラノ)
マーク・パドモーア(テノール)
ジェラルド・フィンレイ(バリトン)
ウェストミンスター交響合唱団
(合唱指揮:ジョセフ・フラマーフェルト)

実を言いますと、合唱曲は自分がアマチュア・コーラス・グループに参加していたことがあるにもかかわらず、今まであまり積極的に聴いてきませんでした。この有名なヘンデルのオラトリオ「メサイア」にしても、あの有名な「ハレルヤ」の部分しか私は知りませんでした。今回聴きに行こうと思ったのはこの時期この曲のコンサートがいたるところであること。教会の中での合唱を含むコンサートを一度聴いてみたかったこと。以上のようなミーハーな理由からです。でもこれだけ有名な曲ですからクラシック・ファンを名乗るからには一度聴かなければという使命感もありました(笑)。予習CDも買いました。たまたま行った店で安く置いていたパロット指揮タヴァナー・プレイヤーズの演奏です。正直初めてCDを聴いたときは少し眠気に襲われたのですが(苦笑)、何度も耳にするにつれて魅惑的なメロディーがいっぱいに散りばめられていることを知りました。

リヴァーサイド教会 外観今回のコンサート、演奏するのはニューヨーク・フィルですが、会場はいつものエヴリ・フィッシャー・ホールではなくリバーサイド教会で行われました。リバーサイド教会はマッハタンのモーニングサイド・ハイツと言われる地区にあり、名前の通りハドソン川の近くに位置しています。有名なコロンビア大学はこの教会のすぐ近くにあります。リバーサイド教会は1929年に建てられ、120mの高さを持つ塔が特徴的です。普段からも観光客が訪れるところでもあります。


リヴァーサイド教会 内部教会内は思ったとおり、かなり残響音が豊かです。ニューヨーク・フィルはかなり編成を絞っているようでした。その後ろに総勢70名ほどの合唱団が控えます。ソリストは指揮者の両脇に陣取りました。曲が始まります。私のリファレンスであるパロット指揮の演奏よりかなり速いテンポで演奏してゆきます。颯爽とした雰囲気ですが、すこし速すぎとも感じる部分がなかったわけではありません。教会内の豊かな響きのせいで前の音にどんどん被ってゆき音の粒立ちがはっきりしないところがありました。マックゲガンさんという指揮者は今回初めて名前を知った方ですが、紹介によるとバロック音楽を中心とした演奏で著名な方のようです。所謂、古楽器奏法による解釈を持ち込んだのでしょうか、ニューヨーク・フィルの編成を絞り、颯爽とした速いテンポで、透明なハーモニーを構築しようとしていたと思います。しかし、やはりニューヨーク・フィル、その色艶をすべて覆い隠すことは難しいです。やや指揮者とオーケストラの間にギャップを感じました。合唱ももう少し歌いたいというのが正直なところかもしれません。

第一部の後の休憩後、第二部が始まりました。第二部の聴き所はなんと言ってもハレルヤ・コーラスでしょう。この部分、初演時に聴いた国王ジョージ2世が感動して思わず立って聴いたという話から、立って聴くのが慣例だという話を聞いていました。私たち夫婦も今か今かとその時を待ち構えていました。その前奏が始まり数人がすくと立ち上がり、やがてお互い顔を見合わせながら徐々に、そして見渡す限り全員が立ち上がっていました。そうして聴いたハレルヤ・コーラスですが、力ずくの合唱で圧倒的に盛り上げると言うよりも、あくまでも音楽的にアンサンブルを大事にし、美しくも高らかなハレルヤでした。この部分はこの良く響く教会の中ではこれで十分だったと思います。

さて、もちろんハレルヤ・コーラス以外にも聴き所はいっぱいありました。特に今回の演奏で好きになり感銘を受けた部分があります。まず第一部、メゾ・ソプラノのソロが最初に登場して歌う場面から合唱に引き継いで歌っていく場面。それまでのどちらかと言うと暗い雰囲気をアルトのソロが優しくも深く包み込み、合唱が美しく盛り上げていったところは気持ちが良かったです。次に、第三部、希望に満ちたメロディーが多く登場しますが、その中でもバリトンとトランペットが掛け合いながら演奏する部分です。今回の演奏ではトランペットの方(いつも見る首席の方でした)が立ち上がりソロを吹きました。それはそれは柔らかいノーブルな音が教会の広い空間に満ち、それはどこまでも耳に心地よく、幸せな気分にしてくれました。ソリストとの掛け合いも楽しんでいるようでした。以前聴いたマーラーの5番の冒頭の他をすべて支配してしまうような圧倒的なソロとはまったく異なっていました。

ハレルヤ・コーラスの部分だけでなく、他にも多くの魅力的なメロディーを持ったメサイア、好きになりました。ちなみにメサイアは英語で歌われています。今回はそこまでの余裕がなくあまり深く意味を考えずに聴いていました。この次はもう少し勉強して歌詞の意味を理解して聴いてみようと思いました。

と言うわけで、昨日のマーラーの「悲劇的」を聴いたコンサートとは異なり最後には何か幸せな気持ちを抱きつつ帰途につくことが出来ました。一年の最後のコンサートには相応しかったのではないかと思っています。


(2004年1月16日、岩崎さん)