■アメリカ東海岸音楽便り〜ボストン響のコンサート・レポートを中心に

エマーソン弦楽四重奏団のハイドン、ショスタコーヴィッチ、ドビュッシー

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エマーソン弦楽四重奏団

2003年10月23日 午後7時〜
ニューハンプシャー州ハノーバー、ホプキンス・センター

ハイドン:弦楽四重奏曲 第68番 ロ短調 作品103
ショスタコーヴィッチ:弦楽四重奏曲 第9番 変ホ長調 作品117
ドビュッシー:弦楽四重奏曲 ト短調 作品10

今回は、アメリカだけでなく世界屈指の弦楽四重奏団であるエマーソン弦楽四重奏団が、私の勤めている大学の主催するコンサートに組まれていましたので、これを逃す手はないと聴きに行ってまいりました。実はエマーソン弦楽四重奏団を聴くのはこれが初めてではありません。今年の2月にボストンでベートーヴェン、ショスタコーヴィッチ、シューベルトの弦楽四重奏曲を聴いております。このときの演奏は技術的なものに驚きこそすれ、正直言って物足りないものでした。今ではほとんど印象に残っていません(ファンの方、ごめんなさい)。しかし、これだけ世評の高い弦楽四重奏団ですから、たまたまそのとき調子が悪いコンサートに当たってしまったのかもしれませんし、もしかするとこちらの聴く体制が万全ではなかった可能性もあります。とにかく、せっかく我が町に世界を代表する弦楽四重奏団がやってくるのですから、もう一度先入観抜きに聴いてみようと思い、このコンサートに出かけたのでした。

最初のハイドンの弦楽四重奏曲は初めて聴く曲であるにもかかわらず、旋律がすぐ耳になじみ、いい曲だなと感じることが出来ました。それはエマーソンの演奏によるところも大きいのだと思います。唯一残念だったのはこの曲が未完成で第二楽章までしかなく、あっという間に終わってしまったことぐらいです。

続いてのショスタコーヴィッチの弦楽四重奏曲第9番は文句なく名演でした。最初、どの奏者の音色もやや生ぬるく感じたのですが、それがかえってショスタコーヴィッチの虚無的な味をよく捕らえていて、そこから次第に熱を帯びた熾烈な歌へと昇華させていったのでした。この曲は休みなく演奏されますが、後半になるほど、奏者間の一体感は増し、鮮烈なリズムは冴えまくっていました。ビオラの方が特にポイントだったと思うのですが、その体をしならせながら演奏する姿は他の奏者達を否応なく巻き込んでいくようでした。第三楽章からはこちらも演奏に飲まれゾクゾクしながら演奏を聴き終えたのでした。こんな演奏を聴かされては参ったと言う他ありません。

休憩後のドビュッシーの弦楽四重奏曲では、前半のプログラムの時と、第一バイオリンと第二バイオリンの奏者が入れ替わって演奏されました。最初どうもギスギスした響きの印象が全体的にあったのですが、これも時間とともに解決され、それとともに色彩豊かな美しい叙情的な旋律が耳に入ってくるようになりました。特に第二楽章の美しさは特筆できる出来であったと思います。

こうして聴いていきますと、性格のまったく違った三つの弦楽四重奏曲を鮮やかに弾き分けたわけですが、彼らに一番似合っていたのはその機能性を全開にして表現したショスタコーヴィッチでした。わたしの手元にあるボロディン弦楽四重奏団の演奏とは趣がずいぶん異なりますが、これからの新しい時代のショスタコーヴィッチの演奏の一つの規範になるのではないかと思います。前回あまり感銘を受けなかったベートーヴェンも機会があればまた聴いてみたいと思いました。


(2003年11月3日、岩崎さん)