■アメリカ東海岸音楽便り〜ボストン響のコンサート・レポートを中心に

バレンボイム指揮シュターツカペレ・ベルリンのシューマンを聴く

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ダニエル・バレンボイム指揮 シュターツカペレ・ベルリン

2004年1月24日 午後8時〜
ニューヨーク、カーネギー・ホール

オール・シューマン・プログラム

バイオリン協奏曲ニ短調 (バイオリン:ギドン・クレーメル)
交響曲第4番ニ短調 作品120
 

今回、カペレはカペレでも、もう一つのカペレ、シュターツカペレ・ベルリンを聴いてまいりました。ベルリン国立歌劇場のオーケストラであるシュターツカペレ・ベルリンもシュターツカペレ・ドレスデンほどでないにしても長い歴史を持ったオーケストラとして知られています。

今シーズン前、そのシュターツカペレ・ベルリンが、終身音楽監督であるダニエル・バレンボイムさんと最近取り組んでいるという、シューマンを中心としたプログラムでカーネギー・ホールに登場することを知りました。日本でのバレンボイムさんの人気は今ひとつの感はありますが、最近の音楽界における精力的な活動と役割は皆さまの広く知るところで、次期巨匠の最有力候補とも目されている人です。私は実演ではピアノのリサイタルを聴く機会がありましたが、モーツァルトのピアノ・ソナタは異様な感動を呼び起こす名演でした。今回は指揮者としての演奏を初めて聴けるということ、またもう一人の気になる演奏家であるギドン・クレーメルさんが独奏者を務めるので楽しみにこのコンサートを迎えました。

私たちが聴いたのはカーネギー・ホールで開催された4日間あるコンサートの3日目の上記のコンサートです。4日間でシューマンの全交響曲、ピアノ、バイオリン、チェロ協奏曲など主だったオーケストラ作品を演奏しています。ゲスト・ソリストの顔ぶれも豪華で、私たちが聴いたギドン・クレーメルさんをはじめ、ラドゥ・ルプーさん、ヨー・ヨー・マさんなど錚々たる顔ぶれです。バレンボイムさんの音楽界における力がうかがい知れようというものです。

出てきたオーケストラを見て気づいたのですが、このオーケストラには日本人はおろか、アジア系の奏者が見あたりませんね。アメリカのオーケストラでは居なくてはならないアジア系の奏者ですが、このオーケストラでは伝統を守り通しているのでしょうか。またチューニングを3回するオーケストラも初めて見たような気がします。1回目は弦楽器、2回目は管楽器、3回目は低音楽器(ベースなど)といった具合です。

プログラム一曲目は、クレーメルさんをソリストに迎えてのシューマンのバイオリン協奏曲。私は普段から、そのクレーメルさんがソロを担当し、アーノンクール指揮ヨーロッパ室内管が伴奏したCDを愛聴しております。クレーメルさんと、アーノンクールさんの共にフレッシュな感性が相乗効果をもたらした名演ではないかと思うのですが、今回はどうでしょうか。

バレンボイムさんの力を込めた一振りと共に演奏が始まります。一聴、暗く、ややくすんだ重いオーケストラの響きが展開されます。この響きは先頃聴いたウィーン響に通ずるものがあります。ウィーン響との違いを挙げれば、ウィーン響の方がやや軽めでザラッとした感触がありました。とにかく、あまりアメリカのオーケストラには感じられない響きだと思いました。クレーメルさんはそんな響きの中、特に気張るわけでもなく、かといってクールに弾くわけでもなく、飄々と自分のペースで音楽を奏でているようでした。バレンボイムさんは結構大きな身振り手振りで指揮していましたが、オーケストラはそれに慣れ切ってしまっているのか、あまり反応しません。バレンボイムさんは一人ますます熱くなっていくようで、オーケストラがそれなりに分厚く鳴るところもあるのですが、クレーメルさんは相変わらず自分のペースで、自分の音がオケにかき消されても我関せずの姿勢です。指揮者、ソリスト、オーケストラがそれぞれ別のベクトルで演奏しているようでした。クレーメルさんは確かにスラスラとどんなパッセージも弾いてゆきましたが、決して美しく響き渡ると言うタイプではありませんね。今日のこのオーケストラとの相性はいまいちでしょうか。そういえばオーケストラの中でもう一人熱い奏者がいました。イケメンの首席チェリストの方です。ソロを担当した箇所ではすごいビブラートと共に熱い音楽をみせました。私の妻は双眼鏡で時々演奏を見ていたのですが、クレーメルさんよりもそちらの方に眼が行ったようです(笑)。

休憩後はシューマンの交響曲第4番です。これは素晴らしい名演でした。きっとオーケストラの響きが有機的にひとつの楽器のように響くとはこういうことを指すのだろうと感じました。前半とは違い、バレンボイムさんの一挙手一投足にオーケストラが機敏に生き物のように反応してゆきます。こうなってくると、もはや、どこのパートがしくじっただの、おかしかっただの、そういった細かいことはまったく気になりません。分厚く鳴っているのにごちゃつかず、内声もよく聴こえました。いざという時のティンパニの一撃や金管の咆哮もうるさく感じません。オーケストラが嬉々と弾いているのが分かる気がします。そういえば、シュターツカペレ・ベルリンは対抗配置にて弾いていましたが、ボストン響の対抗配置を聴いた時とは異なり、そのバランスにもまったく違和感がなかったです。

第二楽章はまたもチェロの首席の方が素晴らしい、しっとりとしたソロを聴かせました。演奏終了後、真っ先に立たされていたのが頷ける演奏です。

圧巻だったのは第四楽章です。冒頭の無から創生への劇的な変換はこれ以上無いくらいに見事に決まりました。そして、その後の主題がこんなに生き生きと喜びを爆発させて演奏された例を知りません。私にはシューマンの「歓喜の歌」のように聴こえました。曲の終結部では多少乱れるのもかまわず物凄いアップテンポを見せ、最後は反対にテンポを踏みしめて高らかに終わります。その凄まじい演奏の熱狂は会場をも巻き込みました。最後の音が響く数小節前から拍手が始まり、最後の一撃が響くころには会場全体が拍手に包まれていました。それが何の違和感もないほどの激演だったのです。

熱烈な拍手に応えてアンコールはブラームスの交響曲第3番から第三楽章が演奏されました。そう、こんな響きでブラームスを聴いてみたいと思っていたんです。悪かろうはずがありません。先ほどまでの熱狂をクールダウンさせるかのようなしっとりとした味わいがありました。

コンサートを終え、同じコンビによるシューマン交響曲全集のCD即売会に走ったことは言うまでもありません。ついでにバレンボイムさんのサインを頂くことも忘れませんでした。

まったくの余談なのですが、私たちが今までに行った2回のバレンボイムさんのコンサートで、両方ともコンサート会場にてCDの即売およびサイン会を催していました。これだけの大物になると、演奏会後の疲れている時にわざわざサイン会を開かなくても特に困らないだろうと思うのですが、どこからそんな気力が沸いてくるのか、一人ずつ丁寧に受け答えしながらサインをしています。その様子を見ていると英語はもちろんですが、数カ国語を流暢に喋っています。聞くところによると、5〜6カ国語は喋れるのだとか。いったいどうなっているのでしょうね、この人の頭の中は・・・。

《私のお気に入りのCD》

CDジャケットシューマン:交響曲全集
ダニエル・バレンボイム指揮シュターツ・カペレ・ベルリン
録音:2003年3月12-14日、ベルリン
TELDEC(輸入盤 2564 61179-2)

コンサートを聴くまでは、クレーメル独奏、アーノンクール指揮ヨーロッパ室内管によるシューマンのバイオリン協奏曲を上げようと考えていましたが、気が変わりました。演奏後、会場にてすぐさま購入したこのCDを上げたいと思います。帰宅後聴いてみて、また感動が新たになりました。実演で聴いた印象と違うのは、もう少しくすんだ音色の響きだったこと、内声がもっと聴こえたこと、そして最後のはみ出すくらいの熱狂がやや整理されていることです。ただ、最後の部分についてはCDで繰り返し聴く分にはこれでも十分かなとも思います。


(2004年2月1日、岩崎さん)