■アメリカ東海岸音楽便り〜ボストン響のコンサート・レポートを中心に

カーネギーホールでロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団を聴く 其の一

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ヘルベルト・ブロムシュテット指揮ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団

2004年2月14日 午後8時〜
ニューヨーク、カーネギー・ホール

ベートーヴェン:交響曲第4番変ロ長調 作品60
チャイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調 作品36

今シーズン、ニューヨークを訪れるオーケストラで、私が一番楽しみにしていたオーケストラ、それがロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団です。それはこのホームページ『An die Musik』に影響を受けたところが大であると言えます。『コンセルトへボウ管弦楽団のページ』内での青木様をはじめとする方々の愛情溢れた文章を読んで、聴きたくならない人がいるのでしょうか。

ところでコンセルトへボウは世界の三大オーケストラのひとつとして知られていますが、正直な話、どうもその知名度と人気の点では他の二つのオーケストラに遅れをとっているようです。ただ、このことも私がコンセルトヘボウに惹かれる理由のひとつかもしれません。そこには音楽的な特別な理由というよりも、関西圏で生まれ育った私の判官贔屓の性格が影響していると言えましょう。ベルリン・フィルや、ウィーン・フィル(特に前者)が音楽界における読○ジャ○ヤンツのように思えると言ったら皆さん大笑いされるでしょうね。

さてアメリカではロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団の位置づけはどうなっているのでしょうか。ちょっと乱暴な話ですが、今シーズン、カーネギー・ホールを訪れる主なオーケストラのチケット価格帯(日本で言うところのS席の価格)を、ボストン響を100として大雑把にみてみますと以下のような結果となります。

チケット価格帯

オーケストラ(指揮者

〜180

ベルリン・フィル(サイモン・ラトル)
ウィーン・フィル(小澤征爾)

180〜150

MET管(ジェームズ・レヴァイン)

150〜130

キーロフ管(ワレリー・ゲルギエフ)

130〜110

イスラエル・フィル(ズービン・メータ)
シュターツカペレ・ベルリン(ダニエル・バレンボイム)

110〜100

ロイヤル・コンセルトへボウ(ヘルベルト・ブロムシュテット)
クリーブランド管(ピエール・ブーレーズ)

100〜90

フィルハーモニア管(クリストフ・フォン・ドホナーニ、ヴォルフガング・サヴァリッシュ)
チェコ・フィル(アンドレイ・ボレイコ)
パリ管(クリストフ・エッシェンバッハ)
チューリヒ・トーンハレ管(デイヴィッド・ジンマン)
フィラデルフィア管(サイモン・ラトル、クリストフ・エッシェンバッハ)
ピッツバーグ響(マリス・ヤンソンス)
サンフランシスコ響(マイケル・ティルソン・トーマス)
ボストン響(ベルナルド・ハイティンク)

90〜

ロシア国立管(ウラディーミル・スピヴァコフ)
ミネソタ管(オスモ・ヴァンスカ)
ワシントン・ナショナル響(レナード・スラトキン)
セント・ルークス管(ドナルド・ラニクルズ、ロジャー・ノリントン他)

やはり、ベルリン・フィル、ウィーン・フィルは別格の感がありますね。それに比べてロイヤル・コンセルトへボウのこの扱いはどうでしょうか。もちろん「価格差=オーケストラの格付け」ではないと思いますが、どこからこの差が出るのかちょっと複雑な心境ですよね。ただそのおかげで、安価なチケットでコンサートを聴ける恩恵に与っているわけではあるのですが・・・。

今回のカーネギー・ホール公演に、コンセルトへボウは現音楽監督のシャイーさんでもなく、次期音楽監督のヤンソンスさんでもなく、ブロムシュテットさんとやってきました。私はこの組み合わせの演奏を知らないのですが、ツアーの指揮者に選ばれたぐらいですから、良好な関係にあるのでしょう。曲目は14日(土曜日)がベートーヴェンとチャイコスキーの交響曲第4番、15日(日曜日)がモーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」とブラームスの交響曲第1番とヘビー級のプログラムが用意されました。どちらかコンサートに絞ることは直ぐに諦め、今回両方とも出撃して聴いてまいりました。

オーケストラの配置は先日のシュターツカペレ・ベルリンと同じく対抗配置です。たしか、コンセルトヘボウはこの配置をあまり採らないオーケストラと聞いていましたので、ちょっと驚きました。よほどブロムシュテットさんを信用しているのでしょうか。

演奏はベートーヴェンの交響曲第4番からです。やや編成の小さなオーケストラで演奏されましたが、先頃流行りの古楽スタイルの演奏ではありません。大風呂敷を広げたりせずに、きちんとした枠を作ってその中で演奏していく感じで、まさに正統的とも言える演奏だったのではないかと思います。この曲では第四楽章等に管楽器の難所があることが知られていますが、破綻がないだけでなく、とてもよく通る魅力ある音で吹ききっていました。またベートーヴェンのような髪形をしたカッコいいティンパニ奏者が深みと存在感のある音を出していたのも特筆しなければなりません。

続いてのチャイコフスキーの交響曲第4番もロシア臭のない、そして特別なことをしない演奏でした。しかし、その中で各々の奏者が自発的に歌っている感じで、木管楽器には微妙なニュアンスが付いていたりして感心しました。こういう特別なことをしない解釈は、一聴、ハッとするところがないのですが、ボディーブローのように徐々に効いてきます。ベートーヴェンよりも大編成となったオーケストラはさらに輝かしい音で本当によく鳴ります。最終楽章は下手をすればドンチャン騒ぎになりそうですが、しっかり鳴っているのに決してそうは聞こえないオーケストラの質の高さを感じました。金管楽器群も最後まで見事に吹ききっていたと思います。

この日の演奏、両曲とも特別な解釈はなく正攻法でじっくりと演奏されただけにコンセルトへボウの上質の音が満喫できました。そういう意味では満足できたのですが、心に迫る感動というものには、もう一押し足りない気がしたのも事実です。明日の演奏が今日の演奏を上回ることを期待してホテルへの道を急いだのでした。


(2004年2月22日、岩崎さん)