■アメリカ東海岸音楽便り〜ボストン響のコンサート・レポートを中心に

タングルウッド音楽祭について

ホームページに戻る
アメリカ東海岸音楽便りトップページに戻る


タングルウッド・ゲート夏の間、ボストン交響楽団はその本拠地をタングルウッドに移します。タングルウッドはマサチューセッツ州の西にあるレノックスという小さな町にあり、ボストンから車で約3時間かかります。タングルウッドのある一帯はバークシャー地方と呼ばれており、夏の間は避暑地として、また秋には紅葉の美しさでも知られています(左写真はタングルウッドのゲート)。

タングルウッドでパラソルの下でコンサートを楽しむ人々タングルウッドでのボストン響のコンサートは1937年から始まりました。当時は何もない芝生の上にテントを建てて行っていたようですが、強い雨のためコンサートが行えなかったこともあったそうです。そのためコンサートホールを作るための寄付が集められ、現在のクーセヴィツキー・シェッドと呼ばれるコンサートホールが完成しました。その後タングルウッド音楽祭はアメリカだけでなく世界でも有名な音楽祭となり、またボストン響だけでなく世界各国から著名な音楽家が集う一大イベントとなったのでした。また普段はクラシック音楽を聴かない人たちもピクニック気分で気軽に参加することが出来、多くの人気を集めることとなります。


クーセヴィッツキー・シェッドボストン響の偉大な音楽監督の一人であったクーセヴィツキーの名を冠したクーセヴィツキー・シェッドは扇形をした建物(左写真)で、ボストン響を中心としたオーケストラのコンサートが連日行われます。シェッド内には舞台、客席とありますが、舞台後方の壁を除いてその周りに壁はありません。ホールの客席後方には広大な芝生が広がっており、その芝生の上で自然を感じながら音楽を聴く醍醐味はタングルウッドならではといえるでしょう。コンサートの始まる数時間前からタングルウッドの敷地に入ることが出来、どこからこんなに人が集まってきたのだろうと思えるほどの人がさまざまなスタイルでコンサートが始まるのを待っています。敷物や椅子はもちろんのことパラソルやテーブルまで持ってきている人たちも珍しくなく、コンサートに来たと言うよりは、家族、あるいは友達同士でピクニックに来たといった感じです。コンサートが始まるまでは、家から持ってきたお弁当や、はたまた園内で買った食事などをビールやワインを片手に楽しむというわけです(私たち夫婦はソフトドリンクですが・・・)。日中は自然の風を感じ、鳥たちのさえずりを聞きながら(これが邪魔だと感じる方にはタングルウッドはお薦めできません)、また夜は空いっぱいの星を眺めながら、一流奏者達の音楽が鑑賞できるなんて贅沢な話だとは思いませんか。

セイジ・オザワ・ホールタングルウッドにはクーセヴィツキ・シェッドの他、セイジ・オザワ・ホールがあります(左写真)。このホールは1994年に建てられ、小澤征爾さんのこれまでの功績をたたえ、出資者がこの名をつけたとのことです。このホールは外壁にレンガ、内壁に木材を使用しており、その外観、内装は周囲の自然に溶け込みとても美しいです。このホールでは主に室内楽を中心としたコンサートが行われます。ちなみにこのセイジ・オザワ・ホールの建てられている場所はタングルウッドの敷地内でもバーンスタイン・キャンパスと呼ばれています。この様に偉大な音楽家達の名前がつけられている場所はもしかすると他にもあるかもしれません。もしタングルウッドを訪れる機会がありましたら探してみてください。

ひとつ特筆しておかなければならないことは、こちらではこういった音楽祭の多くがボランティアや寄付によって支えられているということです。タングルウッドも例外ではありません。入り口でプログラムを配っている人をはじめ多くの人がボランティアとして働いています。それに、このタングルウッドの広大な土地自体(約210エーカー)が元々個人により寄付されたものだというから驚きです。多くの人の善意によりこの音楽祭は支えられているのですね。

タングルウッドでは様々な伝説となるような演奏も数多くあるようなのですが、我々日本人にとって有名なのはやはり五嶋みどりさんのタングルウッド・デビューでのハプニングでしょうか。ミドリさんがタングルウッドにデビューしたのは1986年、弱冠14歳のときです。彼女はまだ普通大人が使うバイオリンより一回り小さいものを使っていたといいます。指揮はバーンスタインで、曲は彼の真新しい作品だったそうです。ハプニングは演奏中に起きました。ミドリさんの使っていたバイオリンの弦が一本切れてしまったのです。すぐさまコンサートマスターのバイオリンを借りて演奏を続けるみどりさん、しかし悪いことは重なるものでそのバイオリンの弦も切れてしまいます。それでもめげず、もう一度新しいバイオリンを借りて演奏を続けるミドリさん。ついに一度も大きな中断を挟むことなく、しかも普段自分が使っているバイオリンより一回りも大きいものを駆使して演奏を成し遂げたのでした。演奏が終了するや否や、はらはらどきどき聴いていた聴衆からは割れんばかりの拍手がミドリさんに送られ、また指揮者のバーンスタインは何回も彼女を抱きしめたとのことです。この出来事は後に「タングルウッドの奇跡」と呼ばれアメリカの学校の教科書にも登場する話として広く知られています。

わたしのタングルウッドの思い出といえば、やはり昨年に聴いた小澤さんの音楽監督としての最後の三公演です。わたしはついに小澤さんの演奏をシンフォニー・ホールで聴く機会は得られなかったのですが、タングルウッドでは三公演を聴くことが出来ました。一日目はロストロポービッチさんとの共演によるドヴォルザークのチェロ協奏曲とブラームスの交響曲第一番。二日目は小澤さんの多くの友人が集まってのコンサート。最終日がベルリオーズの幻想交響曲をメインとしたプログラムでした。一日目のロストロポービッチさんはやや不調だったのだったのですが、小澤さんの指揮するボストン響はよかったです。ブラームスの一番ではボストン響はやや荒かったですが、名演だったと思います。二日目のガーシュウィンの《ラプソディ・イン・ブルー》もスリリングな名演でした。そして何より素晴らしかったのが最終日の《幻想交響曲》でした。この曲ではもっと効果を狙って熱狂的に演奏する方法もあると思うのですが、そういった方法をとらず、純粋に音楽のみを追求し演奏した結果、自然と沸き上がってくるような恐ろしさを感じさせる名演奏でした。私の小澤さんの凄さを知った演奏でもあります。

今年も魅力あるプログラムが数多くあり、どのコンサートに行くか迷うところですが、豊かな自然を満喫しつつ、すてきな演奏に巡り会えたらいいなと思っています。

■おまけ■
タングルウッドに行ったついでに・・・

バークシャー看板このページを読んでいらっしゃる方でバークシャー・アウトレットの名前を知らない方は少ないのではないかと思います。もしかすると一度は利用したことのある人もいるかもしれませんね。一応知らない人もいるかもしれないので言っておきますと、バークシャー・アウトレットはインターネットにおけるアウトレットCDの元祖とも言える存在です。最近における激安CDのおかげで、やや影が薄くなってきた感もありますが、やはりまだまだ根強いファンは多いのではないかと思います。

バークシャー外観それではその魅力はどこにあるのでしょうか。まず安い。これは言わずもがなですね。しかし、一番大きな魅力は、自分が探していたにもかかわらず入手できないでいたCDが突如として現れることじゃないでしょうか。もちろん、いつも見つかるとは限らないのですが、そういったCDが見つかったときの喜びはちょっとした宝の山でも掘り当てたような喜びがあります。今回私はその謎に包まれた(別に包まれていないって!?)バークシャー・アウトレットの唯一の店舗に突撃レポートを試みたのでここにご報告します。最初に言っておきますが、わたしはバークシャー・アウトレットの回し者ではありません。

バークシャー・店内まず、バークシャー・アウトレットに普通のCD店のような店舗があったのかと、驚かれる方も多いかもしれません。実はちゃっかり自身のウェブページでその存在を明らかにしています。その中には「ウェブのカタログには載っていない一枚物が何種類もあるので、近くに来た際には是非我々の店舗を訪ねてくれるように」という宣伝書きがあります。う〜ん、これは行ってみたいですね。さっそく場所を調べてみるとタングルウッド音楽祭の行われるレノックスの隣町リーという所、タングルウッドから車で10分ぐらいのところです。ホームページには土曜のみ空いているようなことを書いてありますが、実際にはタングルウッド音楽祭が行われている夏の間は平日も営業しているようです。きっとタングルウッド音楽祭に来たついでに寄って帰る人が多いのでしょう。

バークシャー・倉庫店舗の建っている場所はリーのダウンタウンからちょっと外れた道路沿いにあります。よーく看板を見ていないと見落としてしまいそうなところです。建物はまあまあ大きくさすがバークシャー・アウトレットと思わせますが、実際にはその建物のほんの一部を占めているだけです。店内に入ってまたびっくり、とても小さいんです。どのくらい小さいかと言うと縦横10メートル四方でお釣りが来そうなくらいです。わたしはよくある外資系CD店の店舗のようなイメージを抱いていたのですが、全く違っていました。えっ、これで全部!?と思っていると店内に隣接した部屋がガラス越しに見えます。そこは巨大な倉庫といった趣で、棚には大量のCDが並べられていました。その間を伝票らしき紙を持った人達がCDをピックアップしながらせわしそうに動いています。どうやらここがバークシャー・アウトレットの心臓部のようです。ここから日本に、世界各地に、CDが送られていくのですね。

もし観光などでタングルウッドを訪れる機会がありましたら、ついでにバークシャー・アウトレットも訪ねてみてはいかがでしょうか。ただ買いすぎにはくれぐれも注意しましょうね(笑)。


(2003年7月16日、岩崎さん)