コンセルトヘボウの立地

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 コンセルトヘボウはいうまでもなくアムステルダムにあり、アムスはオランダ(正式名ネーデルランド王国)の首都です。その過去について、先に参照したカタログ「NEW定盤」シリーズの「名門フィリップスが誘う、クラシック深次元。」では、このように描写されています。抜粋してみますと、

《ネーデルランド…いまはオランダとベルギーに分かれているけれども、この北海に面した地帯は、「低地」を意味するその言葉で呼ばれていた。この低地には七つの海の情報と富が集まってきて、それらの一部は、この低地に河口を持ついくつかの大河を通して、ヨーロッパのすべての大都市に伝えられていった…この低地は世界の富と情報のセンターだった。》

《この情報と富がネーデルランドに、イタリアとともにもっとも早いルネサンスを体験させることになった》

《17世紀には、東インド会社を中心とする東方貿易が、この街に世界の富を集中させ、この街はもっとも栄光に包まれる…このころ世界の首都はまさにアムステルダムだった。この街のこのころの勢いはだれもさえぎることができなかったろう。ルーベンス、レンブラント、フェルメールという巨匠たちが半世紀の間に続出した絢爛さは眼も眩むほどだ…レンブラントは光の表現にずば抜けた才能を見せたが、その光をきわだたせるのは陰影…その基調は暗褐色、それはアムステルダムの街の色だ。東方やアメリカ大陸からの長い航海を終えた船は、街のなかに縦横にめぐらされた運河を通って、運河に沿って立つ船主の商人の暗褐色の石造りの邸の裏手に横付けされた。運び出された積荷は邸の中庭に高く積み上げられ、建物の二階、三階にある倉庫に運び入れられた…》

 長くなりましたが、雰囲気がよく伝わってくるのでついそっくり引用してしまいました。テキストの方はこのあと、フィリップスのコーポレートカラーもアムスの街並みと同じ渋いブラウンであるとつないで、《フィリップス・レコーディングの奥行きの深い、音楽の本質を捉えて離さない「渋さ」をもっともよく表しているように思われる…》と結ばれています。なんとも見事なイメージ戦略で、デッカやEMIには絶対に書けない文章ではないでしょうか。

 さてそのアムステルダム中心市街地の地図をガイドブック等で見てみますと、コンセルトヘボウはたいていその下の端の方に位置しています。市立美術館、ゴッホ美術館、国立博物館(国立美術館と表記される場合もあり)等が立地するムーゼウムプレイン(美術館広場)に面しており、文化施設エリアを形成しているわけですが、このうち国立博物館と市立美術館はそれぞれ1885年、1895年とコンセルトヘボウと相前後して開館しており、これらと比べると1973年のゴッホ美術館などごく最近の施設といえます。そしてコンセルトヘボウの正面外観(ファサード)は、この広場を挟んで対面する位置に先に建てられていた国立博物館との調和に留意してデザインされたとのことです。

 街外れの静かな場所をカルチャーゾーンとし、ホールもそこに建設する。きわめて常套的な都市計画ではあるものの、ホール前面の広い車道を自動車がひっきりなしに通り、これが後に大改修が必要となるほどの地盤沈下を引き起こす要因の一つとなろうなどとは、19世紀末の人々が予測しなかったことでしょう。

 ちなみに一般のガイドブック等での表記はたいてい「コンセルトヘボウ」ではなく「コンセルトヘボー」です。なんとなく間抜けで、コリン・デイヴィスが「コリン・デービス」と表記されてしまうとき以上にガックリきてしまいます。「コンセルト・ヘボー」となっている場合もあります。クラシック愛好家以外には「へボー」と認識されている。インターネット等でコンセルトヘボウを検索する際の、一つのポイントかも知れません。


(An die MusikクラシックCD試聴記)