ベルナルト・ハイティンク 作曲家別録音歴
■ラヴェル篇■

(文:青木さん)

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1.コンセルトヘボウ管 

CDジャケット

 少々意外なことかもしれませんが、ハイティンクにとってラヴェルは主要なレパートリーの一つです。コンセルトヘボウと主な曲をレコーディングし、その多くをボストン響と再録音しているほか、来日公演でも何度か演奏されています。

 コンセルトヘボウ管とは、まず1961年9月にラヴェル・アルバムを一枚録音しました。ハイティンクの常任就任が1961年で、ヘボウのクロニクルによりますと9月1日とのことですので、これは就任記念録音とさえいえるものです。やはりハイティンクにとってラヴェルは特別な存在なのでしょうか。翌年にはラヴェル編曲のムソルグスキー「展覧会の絵」も録音しています。そういえばシャイーとヘボウの第一弾アルバム(録音順では第2回)も「展覧会の絵」を含むラヴェル作・編曲作品集でした。

 最初の録音から10年後の1971年9月、ハイティンクとコンセルトヘボウ管は、再録音を含むラヴェルの主要な管弦楽曲の録音を開始し、5年間をかけて三枚のアルバムを制作しました。「ダフニスとクロエ」は今回も組曲版ですが、「マ・メール・ロア」は全曲版。フランス圏以外で当時ここまでラヴェルの録音に積極的だった演奏家は少なかったのではないでしょうか。しかも彼らはラヴェルに続いてドビュッシーも、アルバム三枚分のレコーディングを行なっているのです。

CDジャケット

 その頃、彼らは実演でもラヴェルをとりあげていたことが、録音で記録されています。蘭NM Classicsによるハイティンクとコンセルトヘボウ管の放送音源集"LIVE The Radio Recordings"には、1967年の「左手のためのピアノ協奏曲」と1972年の歌曲二曲が収録されています。またハイティンクとコンセルトヘボウ管の日本公演でも1968年の第2回公演では「マ・メール・ロア」の組曲、1974年の第3回公演では「優雅にして感傷的な円舞曲」と「スペイン狂詩曲」が演奏されました。このうち最後の「スペイン狂詩曲」を含む5月17日の演奏会はFM東京の「TDKオリジナルコンサート」でオンエアされ、「TOKYO FM ARCHIVES」としてTDKの保存音源リストに入っています。この保存音源は、演奏家の許諾が得られたものから順次CD化されるとのことですので、楽しみです。

 フィリップスの録音はすべてCDで出ています。1970年代のLP三枚分の曲は"DUO"シリーズの二枚組に全曲収録されていますし、1961年のレアな録音さえ「フィリップス秘蔵名盤シリーズ」でCD化されました。もっともハイティンクとヘボウに関しては、再録音がなされていない「展覧会の絵」やハイドンの交響曲など、より秘蔵度の高い音源がほかにあるのですが。

【演奏者】

  • アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
  • フーベルト・バルワーザー(フルート) 〔ダフニスとクロエ(1971)〕
  • ダニエル・ワイエンベルク(ピアノ) 〔左手のための協奏曲〕
  • ジョン・シャーリー=カーク(Bs) 〔デュクリーヌを想うドン・キホーテ〕
  • へザー・ハーパー(S) 〔シェエラザード〕

【レコーディング・リスト】(録音順、特記以外はすべてPhilips)

  • バレエ「ダフニスとクロエ」第2組曲 1961.9.
  • 亡き王女のためのパヴァーヌ 1961.9.
  • 道化師の朝の歌 1961.9.
  • スペイン狂詩曲 1961.9.
  • 左手のためのピアノ協奏曲(Live) 1967.4. (NCRV & NRU)
  • バレエ「マ・メール・ロア」全曲 1971.9.7-9.
  • バレエ「ダフニスとクロエ」第2組曲 1971.9.7-9.
  • 道化師の朝の歌 1971.12.
  • デュクリーヌを想うドン・キホーテ(Live) 1972.4. (NOS)
  • シェエラザード(Live) 1972.12. (NOS)
  • 高雅で感傷的なワルツ 1973.2.
  • スペイン狂詩曲 1973.9.12.
  • ボレロ 1975.4.21-22.
  • ラ・ヴァルス 1975.4.21-22.
  • クープランの墓 1975.4.21-22.
  • 古風なメヌエット 1976.7.1-2.
  • 亡き王女のためのパヴァーヌ 1976.7.1-2.

【国内盤初出】(< >内は発売年月、すべてLP/日本フォノグラム)

  • 1961年録音の4曲 SFL7549 <1962.6.>
  • マ・メール+ダフニス SFX8615 <1973.7.>
  • 道化師+高雅+スペイン+古風 X7751 <1977.11.>
  • ボレロ+ヴァルス+クープラン+王女 X7753 <1977.10.>

〔輸入盤〕
左手のためのピアノ協奏曲,デュクリーヌを想うドン・キホーテ,シェエラザード:国内盤未発売;"LIVE The Radio Recordings" (CD:NRU - NM Classics 97014) <1999>

 

2.ボストン響 

CDジャケット

 ハイティンクがコンセルトヘボウを離れた後に結びつきを強めたオーケストラのひとつが、ボストン響でした。アメリカの楽団としてはもっとも欧州調のサウンドを持つと言われることもあるオーケストラであり、ホールのアコースティックな音響もコンセルトヘボウやムジークフェラインに匹敵するとされることもあって、さほど意外な組み合わせという印象は受けません。フィリップスにとってもデイヴィスや小澤らの録音を通じて馴染んでいたオーケストラとホールです。

 このボストン響との初録音がラヴェルでした。曲はヘボウと組曲版を二度録音していた「ダフニスとクロエ」、今回は全曲版です。全曲となると合唱が必要なので通常は組曲版で済ませる例が多いと思われるのですが、ボストンではタングルウッド合唱団をわりと自由に起用できたのかもしれません。ハイティンクとボストン響のもうひとつの録音チクルスであるブラームス交響曲全集でも、余白を埋めるフィルアップ曲として定番の「大学祝典序曲」ではなく、合唱が必要な「アルト・ラプソディ」や「哀悼の歌」をあえて選んでいるのです。これらの事例だけから「合唱をフリーに使えた」と断言することはできないものの、たとえばレヴァインとシカゴ響の録音に合唱入りの曲が多いことの背景には彼が仕切っていたラヴィニア音楽祭の関係でシカゴ交響合唱団を自由に起用できたという事実があったとのことですので、ボストンでも似たような事情があった可能性があります。

CDジャケット

 ハイティンクとボストン響は「ダフニスとクロエ」の翌年から1994年にかけてブラームスの交響曲全集を完成したあと、1995年と1996年に再びラヴェルを録音しました。管弦楽曲8曲の再録音で、うち「スペイン狂詩曲」と「道化師の朝の歌」は実に三回目となります。ハイティンクがヘボウ時代に録音した曲のうち他のオーケストラで再録音したレパートリーはほとんどが交響曲と協奏曲ですので、ラヴェルの管弦楽曲がCD三枚分ほぼそっくり再録音されたことは異例であり、やはりハイティンクにとって並々ならぬ思い入れがあるのではないかと想像されるのです。

【演奏者】

  • ボストン交響楽団
  • タングルウッド音楽祭合唱団(合唱指揮:ジョン・オリヴァー) 〔ダフニスとクロエ〕
  • ドロワ・アントニー・ドワイヤー(フルート) 〔ダフニスとクロエ〕

【レコーディング・リスト】(録音順、すべてPhilips)

  • バレエ「ダフニスとクロエ」全曲 1989.5.1-2.
  • スペイン狂詩曲 1995.11.
  • 古風なメヌエット 1995.11.
  • バレエ「マ・メール・ロア」全曲 1995.11.
  • ラ・ヴァルス 1995.11.
  • 道化師の朝の歌 1996.4.
  • クープランの墓 1996.4.
  • 高雅で感傷的なワルツ 1996.4.
  • ボレロ 1996.4.

【国内盤初出】(< >内は発売年月、すべてCD)

  • ダフニスとクロエ 日本フォノグラム PHCP201 <1990.5.>
  • 1996年録音の4曲 ポリグラム PHCP11102 <1998.6.>
  • 1995年録音の4曲 ポリグラム PHCP11106 <1998.7.>

 

(2003年5月8日、An die MusikクラシックCD試聴記)