ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2025年来日公演の記録
文:管理人の青木さん
■概 要
[指 揮]クラウス・マケラ
[ピアノ]アレクサンドル・カントロフ
[プログラム]A ブラームス:ピアノ協奏曲第1番
バルトーク:管弦楽のための協奏曲
B リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」
マーラー:交響曲第5番
前々回2019年はパーヴォ・ヤルヴィ、前回2023年はファビオ・ルイージに率いられて来日したロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団。今回はいよいよ第8代首席指揮者クラウス・マケラの登場となった。実際の就任は再来年の2027年からとのことだが、すでに2022年から芸術パートナーを務めているという。現在のポスト(オスロ・フィルの首席指揮者とパリ管弦楽団の音楽監督)がちょうど2027年までらしいものの、コンセルトヘボウ管の首席就任と同時にあのシカゴ交響楽団の音楽監督にもなるというから、もはや常人には理解不能なスーパースターぶりだ。今回のツアーも2017年以降のパターンを踏襲し、韓国と日本を回るものとなっている。マケラとコンセルトヘボウ管は、10月29日と30日に本拠地でR.シュトラウスの「ドン・ファン」「薔薇の騎士組曲」等を演奏したのちツアーに出発。11月5日と8日にソウルで上記Aプロ(ただしピアノはキリル・ゲルシュタイン)、6日と9日にソウルとプサンで上記Bプロ(ただし「ドン・ファン」の代わりにブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番)を演奏、その後日本に移動してカントロフと合流し京都を皮切りに六公演、という流れになっている。高崎に初登場で、名古屋が飛ばされた。西日本と東日本を行ったり来たりという、妙な行程だ。
確認できた関連公演は、フルートとトランペットの団員による京都での公開レッスンと、ブラス・アンサンブルの東京(+シャンハイ)公演。
■日 程
11月11日(火) 19:00 京都コンサートホール、京都【プログラムA】
料金 S:31,000円 A:26,000円 B:21,000円 C:15,000円 D:11,000円
主催 京都市、京都コンサートホール(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)
11月13日(木) 19:00 高崎芸術劇場 大劇場、群馬【プログラムA】
料金 S:25,000円 A:20,000円 B:12,000円 U-25:3,000円
主催 高崎芸術劇場(公益財団法人高崎財団)
11月15日(土) 15:00 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール、兵庫【プログラムB】
料金 A:32,000円 B:28,000円 C:24,000円 D:20,000円 E:16,000円 F:12,000円
主催 兵庫県、兵庫県立芸術文化センター
11月16日(日) 17:00 ミューザ川崎シンフォニーホール、神奈川【プログラムB】
料金 S:38,000円 A:33,000円 B:27,000円 C:21,000円 D:15,000円
主催 川崎市、ミューザ川崎シンフォニーホール(川崎市文化財団グループ)
11月17日(月) 19:00 サントリーホール、東京【プログラムA】
料金 S:38,000円 A:33,000円 B:27,000円 C:21,000円 D:15,000円
主催 KAJIMOTO
11月18日(火) 19:00 サントリーホール、東京【プログラムB】
料金 S:38,000円 A:33,000円 B:27,000円 C:21,000円 D:15,000円
主催 KAJIMOTO
[関連公演1]ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団メンバー(フルート・トランペット)による公開マスタークラス
11月12日(水) 13:00 京都市立京都堀川音楽高等学校ホール
受講:京都堀川音楽高等学校の生徒
聴講:京都コンサートホール・ロームシアター京都Club会員及び京響友の会会員のみ
[関連公演2]ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団ブラス・アンサンブル
スペシャル・ゲスト : エリック・ミヤシロ
11月19日(水)19:00 第一生命ホール、東京
料金 ロイヤルシート:12,000円 指定席(一般):7,000円 U18:4,000円
主催 KAJIMOTO
11月23日(日)14:30 上海コンサートホール、上海
料金 480元/380元/280元/180元
主催 : 梶本(北京)文化传媒有限公司/KAJIMOTO■感 想:11月11日 京都(Aプロ)
<後半>
我が最愛曲の一つであるバルトークのオケコンをコンセルトヘボウ管の実演で聴ける日がくるとは!と一人舞い上がりつつ京都に向かいました。というわけで前半は飛ばしまして後半から。こちらのその期待を大きく上回った素晴らしすぎる演奏に、深い満足を得られました。極上の美音と名技によって、楽曲の構成と展開/対旋律の絡み合い/楽器の重なりや特殊奏法/リズムの変化など、この名作の複雑多様な特徴を次々に新発見させられていく「特別な体験」という印象さえあり、これまで実演や録音で聴いてきた諸演奏とは別次元だったといっていいほどです。
マケラの音楽づくりはテンポや表情付けをかなり細かく変化させ、それらが演出過剰に陥らずことごとくツボに嵌っていると感じさせるのがまず驚きでした。やはり彼は特別な才能の持主だと感服せざるを得ません。全体としては、3年前に聴いたパリ管のときよりもオーケストラの自主性を優先させているように見えましたが、ここぞという場面ではシャープに煽りたて、まさに緩急自在です。特に終楽章に入る直前のマケラの気迫、ホルンの完璧な合奏に導かれて急速テンポの主部に突入するあたりが本日の秀逸でした。
オーケストラの演奏面については、今回最も素晴らしかったのが金管セクションです。第1楽章のカノンと第2楽章の君が代風コラールは、もう震えるほどの感動。鋭さを抑えた音色で美しくまろやかに溶け合いつつも各楽器が雄弁自在に主張している、魔法のようなブラス・サウンドでした。演奏後にとりわけ大きな拍手を受けたパートだったので、多くの人が同じ思いを抱いたと思われます。
木管群はフルート以外の音が必要以上にブレンドしすぎているように聴こえたものの、多彩な表現力と絶妙な技巧はいつもの通り。弦の目の詰んだ豊かな響きと場面によって表情が変化する雄弁さも、また素晴らしい。そして強奏しないのに独特の重みがあるティンパニをはじめとする打楽器群。これらがえも言われぬ美しい一体感を成し、そこに従来はほとんど感じられなかった独特の空気感というか一種の「透明感」が加わっていたところが、マケラによってもたらされた新たな個性だと感じました。
一方ではずっしりした重量感や花曇りの如き色彩感といった要素が後退し、渋くほの暗いかつてのコンセルトヘボウ・サウンドはいまや「完全に」過去のものになってしまったという寂しさもないではないですが、いつまでもそんなことを言っていても仕方ありません。変化を遂げつつも強い個性を、そして超一流オーケストラとしての機能と風格を、いまなおしっかりと維持していることを感悦すべきなのでしょう。
<後半のアンコール>
完売・満席の客席からの鳴りやまぬ拍手とブラボーに応えてのアンコールは、ヨハン・シュトラウス2世のポルカ・シュネル「ハンガリー万歳」でした。2008年の来日公演でもマリス・ヤンソンスがアンコールで採りあげた曲で、あの時はラヴェル「ラ・ヴァルス」の超名演の余韻が損なわれるようで蛇足感を否めなかったものでしたが、今回はバルトークとのハンガリー繋がりがあるせいか違和感はありません。賑やかすぎる曲なのにお祭り騒ぎになったりせず節度を保っている演奏は、好感を持てるものでした。
この、常に一定の余裕を残しているかのような演奏姿勢こそ、コンセルトヘボウ管が一体感と個性とを堅持し続けている理由の一端ではないかと、改めて感じ入った次第です。
<前半>
ブラームスのピアノ協奏曲は、いまだに好きになれずあまり楽しめない楽曲ということもあって後半曲のような感動には至らず、開眼の期待もあっただけに残念でした。座席位置(1階中央付近の列の右端)の関係か、ピアノの直接音がストレートに届いてこず、悪い意味での「ピアノ付き交響曲」状態だったことにまず違和感が。また後半のオケコンでも感じることになるオーケストラ・サウンドの「透明感」がこの曲にはそぐわないように思われ、弦楽器の人数を増やすことでマッシヴな迫力を補おうとしたのかと勘ぐったほどです。
とはいえ終楽章のころには耳のほうが補正されてきたのか、鮮烈そのものといった印象のカントロフの独奏が際立って聴こえはじめ、管弦楽の演奏との方向性がうまく一致していたようにも感じられました。
<余談>
関西公演のS席が今回ついに3万円を超えてしまったわけですが、ベルリン・フィルとウィーン・フィルはとっくに4万円台に入っていて首都圏では5万円を突破しています。それらに比べると最高額3.8万円のコンセルトヘボウはまだ割安だと思ってしまうほど。料金面での三大オーケストラはベルリン・ウィーン・シカゴでありヘボウは一段格下、という状況がありがたくもあり悔しくもあり、複雑な気分です。この先マケラがシカゴ響と来日してくれればオーケストラの価格差を比較しやすくなりますが、どうでもいいですかねそんなことは。
■感 想:11月15日 兵庫(Bプロ)
金管が活躍する演目への期待がいやが上にも高まりすぎて限界突破直前、といった状態で西宮へ。感想は・・・
ホルン最高! 最高 of 最高!!
以上。生きてこの日の演奏会を聴けたことのありがたさをしみじみと感じながら帰途につきました。
(2025年11月17日、An die MusikクラシックCD試聴記)