An die Musik 開設7周年記念 「大作曲家7人の交響曲第7番を聴く」

マーラー篇
バーンスタインとMTT

文:Fosterさん

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 「全てのクラシック音楽で最も好きな交響曲は?」。クラシックを聴き始めの頃、先輩や友人達とよくこういう話題で盛り上がった記憶が私にはあります。こういう話題で盛り上がったことがある人は私に限らず、クラシック音楽を聴く人の中に少なからずいらっしゃると思います。

 私の場合、まだクラシック音楽を聴き始めてそんなに経歴が長いわけではありませんが、頭に思い浮かぶのはブラームスの交響曲第1番かマーラーの交響曲第7番になります。しかし、ブラームスの交響曲第1番は、たしかに好きではあるものの、私が交響曲というものを生まれて初めて全部聴きとおして、そして夢中になったといういわば記念的な作品という側面が強いのが事実であり、色々と聴き知って一番好きな曲となるとこのマーラーの交響曲第7番ということになるのかもしれません。

 マーラーの交響曲第7番<夜の歌>は、色々な意味で非常に独特な曲だと思います。曲の構成、使用する楽器等どれをとってもマーラーという作曲家の音楽の中でも独特な個性的な作品です。その個性が私には非常に魅力的であり、その個性をいかに生かすか、聴かせるかというのが私のこの曲における評価のポイントになっています。

 曲全体のまとまりを保つこと(この曲で一番難しいこと!!)、独特の音楽語法をうまく聴かせること(書法の先鋭性など)、曲の雰囲気をうまく出す事(勢いだけでなんとかなる曲ではない)をいずれも見事に表現した演奏というのは残念ながらそう多くないように思います。

 曲が曲だけに部分的に面白く聴かせてくれる演奏というのはいくつもありますが(ラトル盤の3楽章、シノーポリ盤の4楽章など)、それらを個々に挙げるときりがなくなってしまいますので、ここでは全ての面において私が満足のいった演奏を挙げさせていただきたいと思います。結果的に、所謂世間的に名盤とされている演奏になってしまうのは非常に気が引けるのですが、いいものはいいということで推薦させていただきます。

CDジャケット

交響曲第7番
レナード・バーンスタイン指揮ニューヨークフィルハーモニック
録音:1985年11月、12月、エイブリーフィッシャーホールにおけるライブ録音
DG(輸入盤 459 088-2)(交響曲全集より)

 

 まずは、バーンスタインによる演奏です。テンポ設定が極めて主情的ではあるのですが、あまりに説得力があるためにこの曲はこのテンポで間違いないと思わせられるすごい力があります。

 長大な1楽章からして凄まじい濃厚な演奏を聴かせられ、1楽章で既に交響曲を一つ聴き終えたかのような感じがするほどです。

 2楽章の夜曲でも、バーンスタインの曲への共感が溢れており、それだけでなくこの楽章のある種の奇怪さもうまく表出されており、バーンスタインの曲の理解の深さもうかがえる演奏です。

 3楽章のスケルツォでは、恐さ、迫力、奇怪さをうまく表現できた素晴しい演奏といえます。

 4楽章の夜曲ではこれでもかというほどのバーンスタインの熱い思い入れが伝わってくる演奏です。ひとつひとつのメロディを愛しげに奏でることでこの楽章のメルヘンをうまく表現しており、やがてくる次の楽章への布石を敷いています。

 そして、5楽章。これまでの音楽と一転して、急にお祭り騒ぎのような明るい音楽が展開されていきますが、ここをいかに聴かせるかが指揮者の腕の見せ所だと私は思います。想像はつくと思いますが、バーンスタイン盤は熱い共感を持って凄まじい盛り上げを見せます。特にラストのトランペットのクレシェンドは聴きどころです。この曲を無理にでも力強く終わらせようとする強い意志を感じます。そして、その後に訪れる不思議な虚無感…。この曲はこれでいいのだとするバーンスタインのメッセージが感じられます。マーラーの全交響曲の中で最もバーンスタインの音楽性とマッチすることもあってか、このバーンスタインの演奏は凄まじい共感と曲の理解が高い次元で融合された希有な演奏であり、聴き手に凄まじいインパクトを与えてくるため、そう度々聴ける類の演奏ではないのも事実です(この演奏を聴いた後でこの演奏を超えるインパクトを与えられるのはクレンペラー盤くらいしか思いつきません)。

CDジャケット

交響曲第7番
マイケル・ティルソン=トーマス指揮ロンドン交響楽団
録音:1997年11月11-13日
RCA(輸入盤 09026-65310-2)

 

 そんな時に聴くのがもう一枚の推薦盤であるマイケル・ティルソン=トーマス(以下、MTT)盤です。バーンスタインの演奏と比べるとMTTの演奏は音に凝縮力があり引き締まっています。しかし、音の厚みに不満を感じる事もないですし、テンポ設定もバーンスタインほどではないですが十分にロマンティックで曲の理解の深さを感じさせる演奏です。

 1楽章から洗練された響きで長大なこの楽章をすっきりと聴かせてくれます。

 2楽章、4楽章の両夜曲での叙情面の表現はバーンスタインとは異なり、感傷的ではなく非常にすっきりとしたものになっています。アッチェレランドで興奮を誘うのではなく、リタルダントを効果的に用いる事で曲の持つ雰囲気をうまく表現しているところが見事といえます。

 3楽章では、歯切れのよいリズムでこの楽章の不可思議さを上手に表しています。各種打楽器の用い方も非常に効果的です。

 5楽章のロンドによるフィナーレもMTTならではの抜群のリズム感に、煌びやかなロンドン交響楽団の金管の響きとが相俟って非常に魅力的なサウンドを作り出しています。ごちゃごちゃしてただの音の狂乱になりかねないこの楽章を見通しよく、それでいて感情の高まりも感じさせてくれるMTTの手腕の高さに脱帽してしまいます。

 MTTのマーラーはマーラーの音楽に特有のあくどさを適度に削ぎ落とし(純音楽的表現に昇華させ)、そこにスタイリッシュな感覚を織り込んだ非常に現代的なマーラー演奏といえると思います。同じような傾向のマーラーを演奏する指揮者は最近数多くいますが、MTTの場合は、そこに感情の自然な高まりが感じられるのです。響きも非常に洗練されており、濁った音で聴こえることはほとんどなく、敢えて言うならば格好のいいマーラーといえるかもしれません。

 現在、手兵のサンフランシスコ交響楽団と全集を作成している途中で7番もリリースされているようですが(店頭ではみかけません)、いずれもこの路線を踏襲した見事なマーラー演奏になっています。特に録音が進むほどMTTの解釈も録音のレベルも高まっており、今後の動向にも注目です。

 

(2005年11月17日、An die MusikクラシックCD試聴記)