An die Musik 開設7周年記念 「大作曲家7人の交響曲第7番を聴く」

プロコフィエフ篇

文:伊東

ホームページ WHAT'S NEW? 「大作曲家7人の交響曲第7番を聴く」インデックス


 
CDジャケット

交響曲第7番 嬰ハ短調 作品131「青春」
ヤルヴィ指揮スコティッシュ・ナショナル管
録音:1985年5月、グラスゴー
CHANDOS(輸入盤 CHAN 8442)

併録:シンフォニエッタ作品5/48

 

 1952年の作曲であるにもかかわらず、嬰ハ短調という調性をもち、4楽章で構成されるこの曲は、「本当に20世紀の曲なのか」と聴き手に疑問を投げかけるような分かりやすい音楽です。哀調を帯びた美しい旋律やユーモラスなフレーズが散りばめられた曲からは、シンプルさと軽妙洒脱を前面に出すべく意識的に作られた感じを強く受けます。解説を読めば、1948年のジダーノフ批判がプロコフィエフにこうした作風を余儀なくさせたことが分かります。そうは言っても、仮にも才人プロコフィエフが書く交響曲であるため、演奏は難しそうです。

 シンプルに聞こえる作風とは裏腹に、使用楽器の種類は多く、ティンパニの他、トライアングル、スネア・ドラム、バス・ドラム、タンブリン、シンバル、ウッドブロック、グロッケンシュピール、シロフォンといった打楽器を各種登場させているほか、ハープやピアノまで使われます。これが華々しく重厚には使われないのです。オーケストラがショスタコーヴィチの「レニングラード」のように壮大に響き渡ることはありません。響きには軽さ、明瞭さが求められます。譜面を眺めていると、シンプルに聞こえるところでも幾重にも楽器が重ねられていて、プロコフィエフが音色の多彩さを作り出しつつも耳に自然なオーケストレーションを徹底的に施したであろうことがうかがえます。このシンプルさは、響きの洗練とリズム感を要求します。できれば、優秀なオーケストラで演奏した、音の良いCDで楽しみたいものです。

 が、そうしたCDを選ぶのが結構難しいのです。

 「青春」などというニックネームがついている曲なのに、現役のCDは多くありません。交響曲第1番と第5番のCDはある程度流通していますが、この第7番になるとそうはいきません。そもそも選択肢の数が限られてしまうのです。

 さらに、重要な問題があります。この曲のエンディングについてです。皆さんがお持ちのCDを確認して頂きたいのですが、どのように終わっていますか? 第1楽章の主題が回帰した後、(ピアノ)で消え入るように終わっていますか? あるいは(フォルテ)で楽天的に終わっていますか? 

 プロコフィエフは当初ピアノで終わるように書きましたが、自らフォルテで終了する改訂版を書いています。全音楽譜出版社のスコアに掲載されている解説には以下のように書かれています。

 作曲家カバレフスキーによれば、プロコフィエフはこの改訂が気に入らず、出版の際はオリジナルに戻すことを望んだ。彼の死後に出版されたスコアでは、オリジナルが採用され、補足として改訂版の集結部が付されている。

p.12 安原雅之

 ブルックナーの交響曲でピアノで終わる版(以下、ピアノ版)とフォルテで終わる版(以下、フォルテ版)があったとしたらそれだけで大論争が持ち上がり、CDのジャケットにもどちらの版か明記されそうです。それなのに、プロコフィエフの場合、CDジャケットにも解説にもこの差が触れられていないようで驚かざるをえません。

 私はピアノで終わる演奏を取りますが、困ったことに全体として好ましい演奏をしているCDにはフォルテで終わるものが多いように思えます。例えば、プレヴィン指揮ロンドン響(EMI、1978年録音)がそうです。大変な充実期にあったプレヴィンとロンドン響による生きのいい演奏を楽しめます。上に掲載したヤルヴィ指揮スコティッシュ・ナショナル管のCDもそうです。ヤルヴィとスコティッシュ・ナショナル管はアンサンブルでも音楽の躍動感でも充実した演奏をしています。が、このヤルヴィ盤とてフォルテで終わるのです。

 私の手元にあるピアノ版にはアシュケナージ指揮クリーブランド管によるものがあります(DECCA、1993年録音)。第1楽章冒頭のひんやりとした感じが妙に面白い演奏なのですが、全体としてはやや平板な音楽になっていることが残念でなりません(かねてから有名なロストロポーヴィッチ盤はピアノ版らしいのですが、私は未聴です)。

 したがって、私が上に掲載したヤルヴィ指揮スコティッシュ・ナショナル管による録音はあくまでも参考盤です。私が考えるベスト盤ではありません。もう少し交響曲第7番の録音が揃い、それを聴き通した時点でこのページは改訂したいと思います。

 

追記

 

 ロストロポーヴィッチ盤をその後入手して聴いてみました。これはどこにも不満を感じさせないすばらしい演奏ですね。第4楽章の余韻を残した終わりかたをしみじみと鑑賞でき、さらに生気溢れた演奏を楽しめると思います。

 

(2005年11月10日掲載、11月22日追記。An die MusikクラシックCD試聴記)