コダーイを聴く
追記:その他のCDなど

文:青木さん

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■ フリッチャイのコダーイ

CDジャケット
 
CDジャケット

[1] 組曲「ハーリ・ヤーノシュ」
[2] 交響曲ハ長調
[3] マロシュセーク舞曲
[4] ガランタ舞曲
[5] ハンガリーの詩篇
フィレンツ・フリッチャイ指揮ベルリン放送交響楽団[1〜4]、RIAS交響楽団[5]

  • ツィンバロン:ジョン・リーチ[1]
  • テノール:エルンスト・ヘフリガー[5]
  • 合唱:RIAS室内合唱団・RIAS少年少女合唱団・ベルリン聖ヘトヴィヒ大聖堂聖歌隊[5]

録音:1961年11月[1]、1961年9月[2]、1954年9月[3]、1953年9月[4]、1954年10月[5] (mono[3〜5])
イエス・キリスト教会[1,3〜5]、SFB放送局スタジオ[2]、ベルリン
ドイツ・グラモフォン(国内盤 ポリドール POCG3341([1,2]+バルトーク「カンタータ・プロファーナ」
ユニバーサル UCCG3004[1,3〜5])

 今回のためにコダーイのオーケストラ曲をいろいろ聴きくらべた中で、もっとも印象的だったのはフリッチャイでした。特に「ハーリ・ヤーノシュ」の異様な濃密さはすごい。第4曲のトロンボーンやサキソフォンなどに思い切った表情づけがなされているのに驚きますが、全体的にもそれに近いノリで、かといって下品になるどころか風格さえ漂っている。ゆったりしたテンポの第5曲と快速調の終曲とのコントラストも効果的。たいへんな名演というべきでしょう。

 [2]はフリッチャイ自身による初演の翌月の録音で、どうもライヴ収録のようですが国内盤CDにはその表記なし。ドラティよりもハードボイルドな演奏で、キリッとした佇まいで古典的造形美といったものを感じさせます。モノラルとする文献もありますが立派なステレオ。[3][4]の両舞曲も、粗野におちいる一歩手前で熱気と緊張感を保ち続けるような好演。モノラルで音の状態がいまひとつなのが惜しまれます。こうなると[5]への期待が高まりますが、やはりモノラルで音の広がりがない分、管弦楽や合唱のダイナミズムがやや窮屈な印象。とはいえシャープな切れ味やドラマティックな凄みはちゃんと伝わり、楽曲の本質をえぐるかのような演奏だと感じました。

 以上の録音には、フリッチャイが指揮した一連のバルトーク録音に通じる魅力があります。フリッチャイにとってもこの両作曲家は、単なる「お国もの」に留まらない深いレベルでの思い入れがあると同時に、指揮者としての資質も彼らの作品に向いているのでしょう。ドイツの機能的オーケストラを活用し、ことさらに「ハンガリー訛り」的なものは出さない演奏であるだけに、よけいにそのように感じます。

 フリッチャイのコダーイは、これらのほかに [4]が「20世紀の不滅の大指揮者たち」シリーズのフリッチャイ篇に収録されています。1961年のザルツブルク音楽祭におけるライヴ録音。大病からの復帰後のせいかグッと遅いテンポ、しかも演奏がウィーン・フィルということもあってか、スタジオ録音とはかなり印象が違います。あと[1]のDG旧録音(1954年)もありますが未聴。

 

■ 「ハーリ・ヤーノシュ」全曲

CDジャケット

コダーイ
「ハーリ・ヤーノシュ」Op.15 全曲

  • 語り:ピーター・ユスティノフ
  • メゾソプラノ:エルジェーベト・コムローッシ、オルガ・ショーニュイ
  • バリトン:ラースロー・パローツ、ジョエルジ・メリス、ジョルト・ベンデ
  • ソプラノ:マルギット・ラースロー
    [カタカナ表記は某ウェブサイトによる]
  • 合唱:エジンバラ祝祭合唱団 (合唱指揮:アーサー・オールダム)
  • ウォンズワース・スクール少年合唱団 (合唱指揮:ラッセル・バージェス)
  • ツィンバロン:ジョン・リーチ

イシュトヴァン・ケルテス指揮ロンドン交響楽団
録音:1968年5月15-18日 キングズウェイ・ホール、ロンドン [LSOのディスコグラフィによる]

プロデューサー:レイ・ミンシャル、エリック・スミス [LSOのディスコグラフィではエリック・スミスのみ]
エンジニア:ケネス・ウィルキンソン、スタンリー・グッドール

デッカ(輸入盤 478 2303)

 ドラティの項で少し触れた”Collector Edition”シリーズのボックス・セットを、「ハーリ・ヤーノシュ」全曲が聴きたくて買いました。ドラティ指揮の13曲は完全にダブりましたが、一部のトラック設定に国内盤との相違あり。4トラックだった「ガランタ舞曲」が輸入盤では5トラックで、分割箇所の違いもあって、これは輸入盤のほうが構成に沿った区切り方に思えます。国内盤が同じく4トラックだった「マロシュセーク舞曲」のほうは、輸入盤では分割なしの1トラック。なおこれらは上記フリッチャイ盤も同様でした。また「孔雀変奏曲」は、変奏単位の18トラックである国内盤に対して、輸入盤では似たような変奏を束ねた計6トラック設定で、これはどちらがいいとはいえません。

 輸入盤ではこの「孔雀変奏曲」の前に原曲である民謡「孔雀」が付いていて、これは指揮者なしの「ロンドン交響楽団合唱団」とクレジットされています。ケルテス盤の「孔雀変奏曲」に付いていたものかもしれません。このセットにはそのケルテス指揮ロンドン響の演奏で、「ハーリ・ヤーノシュ」の全曲版と「ハンガリー詩篇」が収録されています。

 さて本題の「ハーリ・ヤーノシュ」全曲ですが、100分ほどの中に語りの部分がけっこう多く、それを除いた音楽の箇所だけに編集してみると80分弱、CD一枚分になりました。そしてこれが実におもしろい聴きもので、組曲版よりもずっと楽しめる傑作。ドラティのダブり覚悟でボックス・セットを買った甲斐があったというものです。

 組曲中の「歌」はその名の通り元は歌曲で、男女の二重唱。これを聴くと、組曲版はカラオケのようで物足りなくなる。また組曲に入っていない歌曲の中には合唱曲がいくつもあり、それがあまりに多彩すぎてちょっと散漫な印象さえ覚えるほど。やはりコダーイは「合唱の人」なのかもしれません。組曲でなじみの「間奏曲」や「ウィーンの音楽時計」「皇帝と廷臣たちの入場」なども全曲の中にあると意味合いがよく理解できますし、「戦争とナポレオンの敗北」のドタバタ的おもしろさも際立ちます。そしてラストで「歌」と「間奏曲」をもとにした合唱と管弦楽で大団円を迎え、充実した聴後感を味わえる。ケルテスが指揮するロンドン響の演奏も、活気に満ちた語り口と鮮烈なサウンドが聴きごたえのあるものでした。

 今回はネット検索で見つけた音楽やストーリーの詳しい解説を参考にして聴きましたが、これほどの曲なら対訳を付けた国内盤を出す価値は十分にあるでしょう。ユニバ社の善処を期待いたします。なお、フェレンチク指揮のフンガロトン盤は序曲入りながらも語りと一部の曲をカットした「準全曲版」だそうで、これも聴いてみたいものです。

 

■ 三大オーケストラの録音

 

 すいません、ほとんど需要はないとは存じますが、最後にヘボウ・カペレ・シカゴのコダーイ録音をまとめさせていただきまして・・・といっても実のところカペレの録音があるのかどうかは確認できておりません。ご存知の方にはぜひともご教示を願っておきます。

 アムステルダム・コンセルトヘボウ管のコダーイは、前述したメンゲルベルクの「孔雀変奏曲」のほかに、ベイヌム(1956)とハイティンク(1969)の「ハーリ・ヤーノシュ」、デイヴィッド・ジンマンの「ガランタ舞曲」(1985)が、いずれもフィリップスから出ていました。ガランタはエド・デ・ワールト指揮のライヴ(1982)がRCOアンソロジーvol.5に入っています。

 一方シカゴ交響楽団のコダーイは、これまでに触れたドラティ指揮の「孔雀変奏曲」(1954マーキュリー)とショルティ指揮の「ハーリ・ヤーノシュ」(1993デッカ)のほか、ネーメ・ヤルヴィがコダーイ集(ハーリ、ガランタ、孔雀変奏曲)を1990年にシャンドスへ録音。ガランタはセイジ・オザワが1969年にEMIへ入れていました。

 これらの中から一つ挙げるとすれば、やはりベイヌム。ワタシはベイヌム先生の大ファンなのでたいてい「最高!」という感想になってしまうんですけど、これは特にすばらしい。颯爽としていながらも大事なポイントはしっかり伝えるという語り口の巧さ。ピシッとした格調と躍動感の両立。まったく絶妙です。ハンガリー情緒みたいな風情はそこそこですが、オーケストラの味のある音色が曲想にピッタリ。柔らかく響く金管など、ほとんど泣けてきそうなほどです。録音も上々で、こんなに聴きやすいモノラル録音もめずらしい。バルトークの弦チェレとブラームスのハイドン変奏曲と組み合わされたCDがRETROSPECTIVEレーベルから出ています。

 

2010年5月27日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記