超絶的録音 ベイヌムの「エン・サガ」

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CDジャケット

マーラー
交響曲第4番ト長調
ソプラノ:マーガレット・リッチー
録音:1951年
シベリウス
交響詩「エン・サガ(伝説)」作品9
ベイヌム指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管
録音:1952年 
DECCA(国内盤 POCL-4590)

 

 このCDは誰がどう見てもマーラーがメインで、シベリウスは単なる余白の曲だ。私だって、ベイヌムにシベリウスの名録音があって、これが初CD化であることを知らなかったら、きっとそう思っていただろう。ベイヌムはシベリウスを2曲録音した。うちひとつは今回CD化され、日の目を見たが、もうひとつの「タピオラ」はなぜかCD化されなかった。なんということだろう。オリジナル・カップリングは最初期の交響詩「エン・サガ」と最晩年の交響詩「タピオラ」という大変趣味の良いものだったのだ。さすが名プロデューサーのカルショウというべきところだ。しかし、このCDのカップリングはちょっといただけない。同じ指揮者の同じオケの演奏を収めているだけで、何の見識も感じられない。最近のCDは長時間収録が売り物だから、20分の交響詩2曲でCDを作るということができなかったのだろう。それなら、「タピオラ」も何か別の曲とカップリングして出すべきだ。このCDの「エン・サガ」が驚異的な録音であるため、余計悔しい。DECCAには善処を強く望みたい。

 それはともかく、この「エン・サガ」だ。まず録音技術に驚く。1952年録音なので当然モノラルだが、ステレオ顔負けの超鮮明な音だ。細部に至るまで楽音が克明に聴き取れ、奥行きはもちろん、スピーカーの前に広大な音場ができる。しかも信じがたいほど鮮明で生々しい音だ。もちろん、疑似ステレオなどではない。弱音から最強音まで歪みも感じられないし、一体どうしてこんな高音質が可能だったのか首をひねってしまう。DECCAには本当に恐れ入る。

 演奏自体がいいのは言わずもがなだ。ベイヌムという人は当時かなり白熱の演奏を繰り広げていたようで、このシベリウスも例外ではない。北方の暗い情念がベイヌムの燃えさかるタクトによって巨大に膨れ上がってくる威容をまざまざと聴くことができる。全くダイナミックな演奏で、指揮者もオケもこの1曲で燃え尽きてしまったのではなかろうか。オケも桁外れにうまい。特にブラス・セクションの咆哮にはおそらくどんな聴き手も「うおおおお!」と叫んでしまうだろう。輝かしく、荘厳な響き。さすがコンセルトヘボウだ。

 前述したとおり、全曲は高々20分しかない。だから、何度でも聴きたくなる。曲と演奏にのめり込んでしまうのだ。読者ももしこのCDを買ったらまず間違いなく、聴き返してしまうだろう。

 なお、「エン・サガ」はどうしたわけか、録音自体が少ないようだ。全集を作る指揮者もなぜかこの曲を録音していないことが多い。そうなると、このベイヌムの録音はさらに貴重なものとなる。

 ところで、カップリングのマーラーについて。シベリウスが余りにもすばらしいので、のけ者にしてしまったが、これもいい演奏だ。特に第3楽章。淡々とした指揮ながらも、オケの様々な楽器が独特の味わいを見せて音楽を彩っていく。オケの技量がいかに高いか、よく分かるというものだ。録音もシベリウスほどではないが、非常にいい。というよりシベリウスの録音は超絶的すぎる。 

 

(1999年1月14日、An die MusikクラシックCD試聴記)