これはお買い得 バルビローリの楽しいコンサート

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CDジャケット

エリザベス組曲
ヴォーン・ウィリアムス
交響曲第8番ニ短調
リムスキー・コルサコフ
スペイン奇想曲作品34
シャブリエ
狂詩曲「スペイン」
バルビローリ指揮ハレ管
録音:1961年
ERMITAGE(輸入盤 ERM 181-2 ADD)

 780円CD。最近すっかりケチケチ状態になってきた。大量にCDを買うためには安くていいCDを買わなければならないから、真剣にCDを漁る。1,500円を超えるCDは高くてなかなか買えない。国内盤新譜で2,500円とか3,000円もするCDを見ると、目が飛び出るような思いである。

 しかし、このページでしつこく書いているが、CDの善し悪しは、価格で決まるわけでも、ブランドで決まるわけでもない。安くていいCDを聴いていた方がいいに決まっている。

 そう言いながらも、今日取り上げたCDは、単にジャケットが良かったから買ったのであった。男前のバルビローリが白黒で写っている。これは渋い。かっこいい。演奏内容は期待しなかった。だいいち、演奏曲目を見ると、訳が分からないのである。最初は支離滅裂なのではないかと思った。例えば、最初にはエリザベス組曲(An Elisabethan Suite)と称し、エリザベス女王時代の曲を寄せ集めた組曲が入っているかと思えば、次には20世紀の音楽になる。ヴォーン・ウィリアムスはイギリスで大人気だろうから、まあわかるとしても、その次はロシアの作曲家リムスキー・コルサコフによるスペインの音楽だし、最後にはフランスの作曲家によるスペインの音楽だ。「こりゃ、一体なんだ?」と思わずにはいない。

 だが、聴いていると、これは実に楽しい。これは1961年4月11日のルガノにおけるライブであるが、聴衆はもちろん、演奏しているバルビローリも、ハレ管の団員も、演奏を心から楽しんでいる。メイン・プログラムはヴォーン・ウィリアムスの交響曲第8番なのだろうが、全曲がメインと言ってしまいたくなるすばらしい演奏だ。

 簡単に演奏についてコメントしよう。

 まず、「エリザベス組曲」。「エリザベス組曲」という題の曲があるわけではおそらくなく、バルビローリがつけたのであろう(違っていたらごめんなさい)。エリザベス女王時代(在位 1558-1603)の曲が全部で5曲並べられている。具体的に列挙すると、

  • William Byrd(1543-1623)
    • The Earl of Salisbury's Pavane
  • Anonymous(読み人知らず)
    • The Irishe ho Hoane
  • Giles Farnaby(1560-1620)
    • A Toye
    • Giles Farnaby's Dreame
  • John Bull(1562-1628)
    • The King's Hunt

 全部で11分ほどしかない。が、これはセンスのいい選曲だ。さすがバルビローリ。厳粛な雰囲気のする曲や、踊り出したくなる曲などが、上手に配列されている。バルビローリは身を乗り出しながら大きな身振りの指揮をしているようで、聴いているとドカンドカンという足音が何度も入っている。それもうるさく聞こえるわけではないから、不思議なものである。

 次のヴォーン・ウィリアムス。ご存知の方も多いと思うが、この第8交響曲は1956年、ヴォーン・ウィリアムスが83歳の時に作曲された。そして、ヴォーン・ウィリアムスはこれを他ならぬバルビローリに献呈したのである。バルビローリは手兵ハレ管と本拠地であるマンチェスターで初演している。バルビローリは自分の血となり肉になっているこの曲をここで演奏しているのだ。20世紀の音楽を聴いているとはとても思えない、楽しい気分が伝わってくる。ハレ管は特定の指揮者との演奏でしか語られることがないようだが、ことバルビローリのもとでは実にいい演奏をする。

 なお、当日のプログラムのテーマは前半が「イギリス」、後半が「スペイン」らしい。が、前半は華々しく壮大に終わるものの、ややシリアスである。バルビローリはもっと聴衆をリラックスさせて楽しませたかったに違いない。リムスキー・コルサコフの「スペイン奇想曲」もシャブリエの狂詩曲「スペイン」もノリに乗った演奏で、聴衆は大満足しただろう。オケも指揮者も、聴衆も一体になってコンサートを盛り上げている。これは楽しいコンサートだ。支離滅裂なように見えたプログラムだったが、実はバルビローリのサービス精神がたっぷり盛り込まれていたようだ。これは本当にお買い得CDであった。780円でこれほど楽しませてくれるとは!

 録音はモノラルであるが、音質は極めてよく、不満は全く感じない。ライブとは信じられないほどだ。ヴォーン・ウィリアムスの交響曲でも細部まで音が鮮明に聴き取れる。よほどマイクのセッティングが良かったのだろう。

 

1999年6月16日、An die MusikクラシックCD試聴記