バルトークの「舞踏組曲」を聴く

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CDジャケット

バルトーク
管弦楽のための協奏曲 Sz116
舞踏組曲 Sz77
プロコフィエフ
「3つのオレンジへの恋」組曲 作品33b
スクロヴァチェフスキー指揮ミネソタ響
録音:不明
Carlton Classics(輸入盤 30371 00012)

 20世紀を代表する名曲を3つもまとめて聴ける豪華なCD。何しろ私はバルトークの「管弦楽のための協奏曲」(通称オケコン)が好きで好きでたまらない口だし、プロコフィエフの「3つのオレンジへの恋」も大変面白い曲だと思っている。しかも、指揮者はスクロヴァチェフスキー。

 演奏は期待に違わぬ立派なものばかり。オケコンは第5楽章でトランペットソロが息が続かず、苦しそうになる局面もある。が、それはそれで臨場感があって楽しめた。完全主義者のようなイメージがあるスクロヴァチェフスキーも音楽の自然な流れを大事にし、あえて撮り直しをしなかったのだろう。プロコフィエフはやや機械的な冷たさが感じられる演奏であるものの、それが意外に曲にマッチしていて面白い。

 しかし、このCDの最大の聴きものはバルトークの「舞踏組曲」だ。これはいい。「舞踏組曲」の作曲は1923年。バルトークの傑作といわれている。ブダペスト市がブダ、ペストが合併してできたことは良く知られているが、その合併50周年記念祭のための委嘱作品である。ハンガリーの民謡やアラブの音楽を一部で取り入れているのが特徴。全曲は5つの舞曲で構成されており、演奏時間は合計18分。

 「傑作といわれている」と書いたのは、実は私はこの録音を聴くまでそう思っていなかったからである。もしかしたら、読者の中にも「有名なわりにはつまらない」と感じている人がいるのではなかろうか。「舞踏組曲」はオケにも難曲だったらしく、初演時はハンガリーのオケの手に余る作品だったようだ。ハンガリーの聴衆はそのせいでこの曲を受け入れなかったという。初めて真価が認められたのはターリッヒがチェコフィルを指揮し、見事な演奏を聴かせてからだという。ターリッヒのことだから、さぞかしすばらしい演奏を聴かせたと思うが、それは今では想像するしかない。しかし、問題はこの曲がその後、どのように演奏されてきたかである。私はバルトークが好きなのでいろんな演奏を聴くが、これほどユーモラスに演奏された「舞踏組曲」は例がないのではないかと思う。バルトークに限りない愛情と畏敬の念を抱き、その生涯を通じてバルトーク演奏を行ってきたドラティでさえ、これほど明るく、楽しい演奏はしなかった。おそらくそうしたアプローチをするつもりがなかったのだろう。私が初めて聴いた「舞踏組曲」はショルティがロンドン響を指揮したものであったが、これは実にとげとげしい演奏で、私は全曲を聴き通すことができない。バルトークは最近古典的な作曲家となりつつあるが、2世代くらい前までの演奏は「現代音楽」としてのアプローチがほとんどだったと思う。もしかしたら、指揮者も自分の中で「現代音楽なのだから、とげとげしく、あるいは冷徹に演奏しなければならない」などと考えていたのかもしれない。さらには、(余りないとは思うが)音楽を咀嚼し切れていなかった可能性がないでもないだろう。

 そこへいくと、このスクロヴァチェフスキーの演奏は図抜けている。録音データが記載されてないのではっきり分からないが、デジタル録音でないところを見ると、おそらくは1980年以前の録音だと思われる。そんな時期に既にこのようなユーモラスな演奏を行っていたとは驚きである。オケの技術が最高だとはちょっと書きにくいが、指揮者もオケもこの曲を完全に咀嚼し、音楽に共感し、演奏を楽しんでいる様子がありありと分かる。また、スクロヴァチェフスキーは音楽を楽しく聴かせようと懸命な努力をしているような気もする。どうせ録音をするなら、こうでなくては。さすがスクロヴァチェフスキー。こんな演奏なら、何度も聴きたい。やはりいい演奏があって初めて名曲が生まれる。そうつくづくと感じさせる演奏であった。

 

1999年5月31日、An die MusikクラシックCD試聴記