ヴァント指揮ベルリンフィルのブル8を聴く

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CDジャケット

ブルックナー
交響曲第8番ハ短調
ヴァント指揮ベルリンフィル
録音:2001年1月19-22日、フィルハーモニー
BMG(輸入盤 74321 82866 2)

 ヴァント5度目のブル8だという。ケルン・ギュルツェニヒ管、ケルン放送響、北ドイツ放送響(2種)に続く録音である。恥ずかしながら、私は北ドイツ放送響の録音からしか聴いていない。

 その2種の北ドイツ放送響ライブと比べても、この新録音は著しい違いがある。それはオケのパワーであろう。もっと下品な表現を使うことを許されるのであれば、ベルリンフィルとの録音ではオケがブリブリ鳴りまくっている。北ドイツ放送響の音はブリブリしない。全く上品なサウンドだ。北ドイツ放送響は1982年来手塩にかけて育ててきたわけだから、そのサウンドはヴァントの望むサウンドだと私は信じていたが、このベルリンフィル盤を聴くと、果たしてそうだったのだろうかという疑問が湧いてきた。

 ヴァントはベルリンフィルとの演奏会に先立ち、1週間ものリハーサルを行ったという。今時1週間もかけてリハーサルをやること自体珍しいだろうが、もし1週間かけたのなら、ヴァントは自分の理想とするサウンドをある程度ベルリンフィルに徹底できただろう。ベルリンフィル団員の技量を持ってすれば、ヴァントの指示通りに音色を変化させることが可能だったはずだ。その長大なリハーサルの結果生まれたサウンドが、「ブリブリ」であるのはまことに興味深い。もしかしたらヴァントは北ドイツ放送響のサウンドや楽団員の技量にまだ満足していなかったのではないか?

 私は北ドイツ放送響は充分にうまいオケだと思っているし、旧盤2種は貴重な録音だと思っている(特に今ではあまり省みられないリューベック大聖堂の録音は、第9番もろとも面白いと思う。ヴァントは残響と格闘しながら演奏を進めるが、それ故に結構味のある演奏ではないか?)。ヴァントはリューベック大聖堂でのライブ録音に満足せず、ハンブルクのムジークハレでのライブ録音を行ったわけで、それがヴァントによるブルックナー演奏の結論だろうと私は考えていた。

 ベルリンフィルとの録音はすさまじい。演奏のダイナミズムは北ドイツ放送響の2種とは比べようもなく激しく、ブラスセクションは鳴りまくり。ティンパニは雷鳴のように響く。特に第4楽章はブリブリ度が頂点に達している。脳天気に書いてしまうと、この楽章を聴くだけでも楽しい。それほどこのCDは音響的に面白い仕上がりになっている。音響面における旧盤からのあまりの変化に私は呆気にとられた。

 しかし、ヴァントは北ドイツ放送響時代の録音に欠けていたものをここで補っている。それは「激しさ」である。ヴァントの旧盤はどうしてもオケを制御しすぎている傾向があり、聴き手にも窮屈さを感じさせていた。制御が甚だしいのか、「激しさ」までいかないのである。ベルリンフィルとの新盤ではそれが克服され、いっそうスケール雄大なブルックナー演奏になっていると思う(やはりベルリンフィルのブリブリ度がものを言っているような気がしてならないのだが...)。

 なお、この演奏で注目すべきはヴァントのテンポ設定である。北ドイツ放送響との旧録音同様、テンポの大きな揺れがない。ヴァントは大見得を切って加速したりすることをしない。よくここまで徹底できたものだ。第4楽章集結部など、その典型である。その頑固さがヴァントらしいところなのだろう。

 

2001年11月7日、An die MusikクラシックCD試聴記