ライブか否か。指揮者の選択
マーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」

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ケント・ナガノ指揮ベルリンドイツ響によるマーラー:交響曲第8番CDジャケット

マーラー
交響曲第8番 変ホ長調「千人の交響曲」
ケント・ナガノ指揮ベルリン・ドイツ交響楽団、ほか
録音:2004年4-5月、ベルリン・フィルハーモニー
harmonia mundi(輸入盤 HMC 901858.59)

 私はマーラーの交響曲第8番を、彼の最高傑作だと思っています。かつて第1部は馬鹿馬鹿しいほど騒々しく、第2部は長くて退屈だと思っていたのですが、テンシュテット盤を聴いて以来、この曲がすっかり好きになり、市販されているCDはなるべく購入するようになりました。かなり聴きあさったと思いますが、この曲の録音にほとんど駄演がないことが分かってきました(声楽陣の性質に対する好悪が分かれる程度です)。それはそうでしょう。ライブ録音であってもなくても、この曲を演奏する際には指揮者、オーケストラ、声楽陣の誰ひとりとしてボルテージが上がらないとは思えないからです。私の手元にある数々のCDは、それぞれにその演奏当時の祝典的な雰囲気を反映させていて興味深いものがあります。

 この曲に、先頃また新譜が登場しました。ケント・ナガノ指揮ベルリン・ドイツ放送響によるCDです。2枚組で4,000円ほどもする高価なCDだったのでどうしたものか迷ったのですが、harmonia mundiらしくCDジャケットからして丁寧な作りだったので、内容も期待できると踏んで購入しました。

 ケント・ナガノ盤はベルリンのフィルハーモニーで収録されていますが、ライブではありません。演奏も熱狂的な雰囲気を伝えるというよりは、複雑・巨大な曲を精緻にまとめ上げたというものです。過去の名演奏に比べると、極端な個性を主張するものではありません。しかし、そうではあっても、これだけ高品位の演奏は、ライブでは収録できなかったでしょう。演奏参加者のレベルが高いレベルで揃っていて、演奏のどこにもキズがありません。何度も繰り返し聴くにはこのようなCDがふさわしいと感じます。録音状態もよく、解説もしっかりしているので、もしこれに日本語の解説が加わっていれば、「千人の交響曲」を最初に聴くCDとして誰にも安心して紹介できると思います。

 ところで、この曲を他の指揮者はどのように録音してきたのでしょうか。以下のような表を作ってみましたのでご覧下さい。ここに取りあげたのは、指揮者が存命中に、自分の意思で承認したであろうと想像される録音です(漏れている録音がいくつもあると思いますがご容赦下さい)。これを見ると、指揮者の録音に対する姿勢が何となく分かってくるような気がします。いかがでしょうか。

録音年

指揮者

オーケストラ

レーベル

 ライブ?

1966

バーンスタイン

ロンドン響

SONY

 

1970

クーベリック

バイエルン放送響

DG

 

1971

ハイティンク

コンセルトヘボウ管

PHILIPS

 

1971

ショルティ

シカゴ響

DECCA

 

1975

バーンスタイン

ウィーンフィル

DG

ライブ

1980

小澤征爾

ボストン響

PHILIPS

ライブ

1981

ギーレン

フランクフルト博物館管

SONY

ライブ

1986

インバル

フランクフルト放送響

DENON

 

1986

テンシュテット

ロンドンフィル

EMI

 

1989

マゼール

ウィーンフィル

SONY

 

1990

シノーポリ

フィルハーモニア管

DG

 

1991

ベルティーニ

ケルン放送響

EMI

ライブ

1994

アバド

ベルリンフィル

DG

ライブ

1994

ネーメ・ヤルヴィ

エーテボリ響

BIS

ライブ

1996

デイヴィス

バイエルン放送響

BMG

ライブ

1998

ギーレン

南西ドイツ放送響

Hanssler

 

2000

シャイー

コンセルトヘボウ管

DECCA

 

2004

ラトル

バーミンガム市響

EMI

ライブ

 

(2005年6月5日、An die MusikクラシックCD試聴記)