アバド指揮のモーツァルト「魔笛」を聴く

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CDジャケット

モーツァルト
歌劇「魔笛」 KV.620
アバド指揮マーラー室内管

  • ザラストロ:ルネ・パーペ
  • 夜の女王:エリカ・ミクローシャ
  • パミーナ:ドロテア・レシュマン
  • タミーノ:クリストフ・シュトレール
  • パパゲーノ:ハンノ・ミュラー・ブラッハマン
  • パパゲーナ:ユリア・クライター
  • 弁者:ゲオルク・ツェッペンフェルト
  • モノスタトス:クルト・アーツェスベルガー
  • 三人の少年:テルツ少年合唱団員
  • アルノルト・シェーンベルク合唱団、ほか

録音:2005年9月、モデナ
DG(輸入盤 00289 477 5789)

 2006年はモーツァルト没後250年なので、モーツァルトのCDが店頭にたくさん並んでいます。新譜も出ています。アバドの「魔笛」もそのひとつですが、アバドは今までに「フィガロの結婚」や「ドン・ジョヴァンニ」を着実に録音してきただけにこの「魔笛」はたまたまモーツァルト・イヤーに当たっただけなのでしょう。

 録音は2005年に行われています。ライブとは明記されていませんが、半ばライブのようです。会場で人を入れずに録音したところと、ライブの録音を合わせて作ったのではないかと思います。会場ノイズはほとんど聞こえないのに、時々聴衆の笑い声が入りますし、終演後には盛大なブラボーと拍手が収録されています。臨場感を出すためにこのような形にしたのでしょう。

 演奏ですが、奇抜さはないかわり、安心して楽しめるものです。CDジャケットを見るとやや不気味ないでたちの「夜の女王」が掲載されていますので、演出は奇抜だったかもしれませんが、「音」は伝統的スタイルです。

 面白いのは、指揮者アバドは姿を消しているように聞こえることです。オーケストラの音色、フレージング、テンポ、歌手の歌い方に関しては当然アバドが決めているはずですが、聴き終わるまでその存在に気がつきません。アバドらしいといえばこれほどアバドらしい演奏もありません。音楽が充実しているので、ここに指揮者の存在を色濃く刻印するようなことをしないのでしょう。私はこれをアバドらしいひとつの良識であると思っています。

 逆に、あまり聞き慣れない名前ばかりが登場する声楽陣は大変生き生きとしています。往年の大歌手達と比べても優れているとか、今後も凌駕され得ないなどと言うつもりは全くありませんが、実に楽しげです。そしてこのCDの最大の特色は、「ジングシュピール」らしいということです。それこそ歌の部分よりも語り=芝居の部分の方が生彩に富んでいます。このCDの録音も芝居をしっかり聴かせようとしているようで、だからこそ舞台上でばたばた動く人の動きを臨場感たっぷり捉えていますし、わざわざ聴衆の笑いも取り入れているのだろうと思います。歌手達は若手が起用されているようですが、その点は立派なものです。パパゲーノ役のハンノ・ミュラー・ブラッハマンという人など、役者そのものではないかと思います。

 このところ、アバドでは貧相な音のCDがいくつも続いたため、CDショップでは一瞬買うのをためらったのですが、このCDは都合3回聴いて楽しみました。歌劇のCDを買ってきて、その日のうちに全曲を聴き通したことはここ何年もありません。こういうCDを聴いていると、台詞なしでアリアやオーケストラの演奏だけを収めたCDはやはりその曲のおいしいところをわざわざ削っていると思えます。

 

(2006年4月23日、An die MusikクラシックCD試聴記)