オーディオ篇 機材のグレードアップ

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■ セッティングはプロジックに。

 

 今年5月、密かにオーディオ機器をグレードアップしました。

 私はオーディオマニアではないと自分では思っていますが、年齢も40代後半に入るといろいろなことを考え始めます。コンサートはもちろん、CDで音楽を聴くにも体力が必要なので、体力のある今のうちに音楽に真剣に接したいです。その時間は短くても、できる限りいい環境で音楽を聴きたいとも願いたくなります。また、60代後半の親戚からは、片方の耳が聞こえなくなったなどという話も聞いています。いつまでも若くはないし、年を取ってからオーディオにお金をかけようとしてもその時には音楽を聴けなくなっている可能性だってあるのです。そのため、できれば今のうちにオーディオ機器をグレードアップしたいと強く念願するようになったのです。端からは贅沢を正当化するための屁理屈としか受け取られない上記理由をあげつらいながら私は数年来女房を説得し続けました。その甲斐があって、今年ついにアンプのグレードアップが認められたのです。

 喜び勇んだ私はアンプをラックスマンのプリメインアンプL-509sからゴールドムンドのMIMESIS 27.3L(プリアンプ)とTELOS 150L(パワーアンプ)に変更、さらにDACをを追加し、ゴールドムンドのDEGIN STEREOを導入しました。

 こうした機材だけを追加したところで私にはオーディオに関する知識がありません。私はオーディオはブラックボックスであって良いと考えていますし、オーディオでは新しい機材を繋ぐだけで完全にその性能が発揮されるわけでもないので、素人の私はさっさとプロにお願いすることにしました。セッティングは前回のCDプレーヤーグレードアップの際と同様にプロジックの出番です。アンプもDACもプロジックにチューン・アップしてもらっています。

 プロジックからは石黒社長とスタッフが我が家に来て、二人がかりでセッティングです。ゴールドムンドのアンプもDACも重量物とは言えません。二人で来たというのはセッティングに二人を要するということです。「大げさだなあ」と笑う方もいると思いますが、私はお二人を見ていて「これはとても素人の出る幕ではない」と思いました。例えば、水晶のインシュレーターを置く際にも向きがあるらしく、水晶をひとつひとつチェックしています。配線にしてもただ繋いでいません。やはりひとつずつクリーニング処理をしています。音出しに至るまで一体どれくらいの作業をしていったのか私には想像もつきません。プロジックの音はこうして作られるのかと長い作業の間私は感心しながら見ていました。

 私が見て判断できる限りではプロジックには以下のようなことをしてもらっています。

グラウンディング・コンディショナー RGC-24

プリアンプの下にはアース環境のためにアコースティック・リヴァイブ製(以下同じ)の「グラウンディング・コンディショナー RGC-24」、パワーアンプの下には電磁波対策として「EMFキャンセラー REM-8」を設置しました。無論それぞれのアンプにはインシュレーターとして「天然スモーキークォーツインシュレーターRIQ-5010」を置いてあります。

DAC DEGIN

ゴールドムンドのDAC DEGINは「これはおもちゃではないのか」と疑ってしまいたくなるほど小型ですが、そのDACにも「天然スモーキークォーツインシュレーターRIQ-5010」を4つ使いました。右側に見える電源ケーブルの下にもインシュレーターがあります。白く見えるのは吸音材「ピュア・シルク・アブソーバー PSA-100」。左側にある水色の物体は防磁材です。

DACとケーブル

CDプレーヤーとDACの間の接続には「デジタル・シグナル・アイソレーション・エキサイターDSIX DSIX-1.0BPA」を、アンプとCDプレーヤーの接続には「シングルコアーケーブル PCOCC-A」を使いました。

ケーブルインシュレーター

DAC及び2台のアンプの電源はすべて「電源ケーブル POWER MAX U」で取っています。電源ボックスには「RTP−4ultimate」。ぶっといケーブルがラックの裏側にひしめいています。これらのケーブルも床に直置きではなく、「ケーブルインシュレーター RCI-3」を噛ませています。また各種ケーブルの要所要所には吸音材として「ピュア・シルク・アブソーバー PSA-100」も使っています。

オーディオルーム

というわけで、今私のオーディオルームは以下のようになっております。
部屋の大きさは7.5畳。窓は2重になっていますが、床は何の対策もしていないため音量を少し上げるだけで家族の怨嗟の対象になります。
見えないところにもぬいぐるみの類がたくさん置いてあります。引っ越してきたときは部屋がライブ過ぎたので、子どもからぬいぐるみを大量に強奪して吸音材に使ったのであります。ただし、今となっては私のコレクションと化しつつあり、これもまた子ども達の怨嗟の的となっています。

 

■ 音を聴く

 

 私がCDを取っ替え引っ替えして聴いていると案の定女房が部屋にやってきました。これだけの出費をしたからには女房が聴いても以前との違いがはっきりと分かるようでなければなりません。そこで女房もよく知る1曲をCDプレーヤーにかけてみました。加藤登紀子の歌う「時には昔の話を」(SONY)です。これはスタジオ・ジブリの映画「紅の豚」にも使われた、女房お馴染みの曲でした。・・・女房はスピーカーから流れる加藤登紀子の歌を聴いて黙って退散。まるで自分のためだけに歌ってくれているような音に感激して帰っていきました。

 実はちょっと冷や汗ものであったのです。オーディオ機器は、そのグレードが上がるほどソフトを選ぶのです。CDに収録されている記録の質が悪かったり、情報量が少ないソフトをかけると、音は出ますがそれなりにしか鳴らないのですね。ゴールドムンドの機材でもアコースティック・リヴァイブのアクセサリーにしてもソフト本来の記録に味付けをして聴かせてくれるわけではなく、本来の記録をそのまま引き出すのです。「時には昔の話を」が女房を満足させるソフトかどうかはかけるまで実は自信がありませんでした。

 逆に、CDそのものに収録されている音の記録が魅力的な場合、圧倒的な音色・質感が楽しめます。An die Musikは「CD試聴記」ですので、どんなソフトがどんなふうに鳴るのか、いくつか実例を挙げて紹介してみます。

 まずは前回のオーディオ篇にも登場したシノーポリ指揮シュターツカペレ・ドレスデンによる「リエンツィ」序曲です。

CDジャケット

ワーグナー
「リエンツィ」序曲
「恋愛禁制」序曲
「タンホイザー」から序曲及びバッカナーレ
「パルジファル」 から第1幕への前奏曲、聖金曜日の音楽
シノーポリ指揮シュターツカペレ・ドレスデン
録音:1995年5月、ドレスデン、ルカ教会
DG(輸入盤 449 165-2)

 グレードアップ前の音に十分満足していただけに、「もうこれ以上の音は難しいだろう」と思っていたのですが、その予想は完全に裏切られました。冒頭のトランペットからして全く違う。シュターツカペレ・ドレスデンの本拠ゼンパー・オパーではきっとこのような音がするに違いないと錯覚させるほど雰囲気のある音でした。会場の広がり、空気がわずかに動く感じ。これはコンサートで聴く音そのものです。SACDでなくてもこのような音が体感できるとは夢にも思いませんでした。

 ただし、この録音はゼンパーではなく、ルカ教会で行われているのですね。ルカ教会がいかに優れた音響特性を持った場所なのか分かります。

 続いてSACDです。

CDジャケット

モーツァルト
ピアノ協奏曲第23番 イ短調 K.488
ピアノ協奏曲第24番 ハ短調 K.491
ピアノ:清水和音
ズデニェク・マーツァル指揮チェコフィルハーモニー管弦楽団
録音:2007年4月29-30日、プラハ、「芸術家の家」ドヴォルザーク・ホール
TRITON(OVCT-00042)

 もともと優秀な録音なのでしょうが、このSACDには驚かされます。コンサートホールでもこれほどの音で音楽を楽しめることは稀です。弦楽器のふわふわとした繊細な響き。木管楽器の匂い立つような響き。それに溶け合うピアノの音。しかも、演奏家達が目の前で演奏しているように聞こえます。録音会場であったドヴォルザーク・ホールで本当にこのような夢見るような音響が聴けたのでしょうか。自分の部屋の中にいるとはとても思えません。以前の装置とは格段の違いです。

 こうした録音を聴くと、録音媒体はコンサートの代わりなどではないと思います。これだけで独立した芸術のひとつです。少なくとも、演奏家達も、録音する側もそのつもりでSACD作りに参加しています。CDやSACDにはもっとすごい可能性が秘められていると予感させられます。

 次は皆さんもよくご存知の録音です。

CDジャケット

R.シュトラウス
アルプス交響曲 作品64
ルドルフ・ケンペ指揮シュターツカペレ・ドレスデン
録音:1971年9月、ルカ教会
EMI(3枚組輸入盤 7 64350 2)

 ケンペのアルプス交響曲は以前にも取り上げたことがある私のお気に入りの録音ですが、いかに私のお気に入りといえども一般的にはやや古い録音という印象が払拭できません。しかし、再度プレーヤーにかけてみると実に芯のある骨太の音が収録されていて、それがスピーカーの前面に大きなパノラマを作ります。何度もこの録音を聴いてきた私でさえその壮大さには舌を巻く思いです。下手な最新録音はこの芯の太さがないばかりか、パノラマとなって迫ってくるような臨場感に欠けます。しかも、このCDでは弱音から最強音までがまるでついさっきルカ教会の中で鳴り渡っていたのではないかと思わせるほどの鮮度で響きます。40年近くも前にこれだけの音が取られていたとは改めて驚かされます。この3枚組輸入盤の価値はさらに高まったと言えるでしょう。

 次にいきましょう。

 妙な味付けはないと思われるゴールドムンドの機材とアコースティック・リヴァイブの周辺機器の組み合わせで意外なことが分かっています。人間の声が実に生々しく再現されるのです。

CDジャケット

「マリア」
ソプラノ:チェチーリア・バルトリ
アダム・フィッシャー指揮ラ・シンティラ管弦楽団、ほか
録音:2006年8-10月、チューリッヒ
DECCA(国内盤 475 9077)

 「19世紀の伝説のディーヴァ、マリア・マリブランへのトリビュート・アルバム」として制作されたこのCDは既に多くのファンを獲得しているようですが、このCDで聴くバルトリは、本当に目の前にいるようです。ここまで生々しいとちょっと恐い。付帯音やノイズ、歪みなど余計なものがなくなったために起きている現象のようです。昔、シューベルトの「An die Musik」を歌ったエリー・アメリングのCD(PHILIPS)が一世を風靡したことがありましたが、その比ではありません。バルトリを独り占めしているようなとてつもない危ない気分になります。

 歌ものではこんなCDも紹介しておきましょう。

CDジャケット

Dear Friends

  1. 恋におちて
  2. さらば恋人
  3. 時代
  4. あなたの心に
  5. 恋しくて
  6. ブルー
  7. 止まった時計
  8. 誰もいない海
  9. コバルトの季節の中で
  10. 君と歩いた青春
  11. 見上げてごらん夜の星を

岩崎宏美
TEICHIKU(国内盤 TECN30880)

 「見上げてごらん夜の星を」を上手な歌で聴きたくて探していたところこのCDが目にとまりました。J-POPSをはじめとする邦楽CDが音質的に耐え難いものが多い中で、岩崎宏美のCDは出色です。あの江崎友淑さんが収録したCDまであります(「PRAHA」。冒頭の「聖母たちのララバイ」はチェコフィルが伴奏しているうえ、ルドルフィヌムのパイプオルガンが入ります)。

 それはともかく、「見上げてごらん夜の星を」を新しい装置で聴いて、オーディオとは何とすばらしいものなのかと大きな感銘を受けました。これだけの歌をこの音で聴けるのは本当に幸せです。

 声楽関係のCDをほかにいくつもご紹介したいところですが、ここではジャズからも1枚。

CDジャケット

WE GET REQUESTS
THE OSCAR PETERSON TRIO

  1. Quiet Nights of Quiet Stars (Corcovado)
  2. Days of Wine and Roses
  3. My One and Only Love
  4. People
  5. Have You Met Miss Jones?
  6. You Look Good to Me
  7. Girl from Ipanema
  8. D & E
  9. Time and Again
  10. Goodbye, J.D.

録音:1964年
VERVE(輸入盤 810 047-2)

 6曲目の「You Look Good to Me」冒頭ではロマンチックな旋律がピアノとベースで奏でられます。そのベースが凄い。胴鳴りを始めていて凄まじい低音で楽器をぶんぶん唸らせるのですが、今やその鳴りっぷりに自分で慌てる始末です。アンプの駆動力が格段に高まったためにスピーカーを限界まで鳴らし切ります。新システムで最初にこのCDをかけたときにはスピーカーが破損するのではないかと本気で心配しました。私は普段直接音ばかりのCDやコンサートを好みませんが、こういう生々しい音を聴くと、そちらの方に走ってしまうオーディオ・マニアが後を絶たないことも頷けます。

 最後に。
 私にとってはこのCDが最も衝撃的でした。

CDジャケット

マーラー
交響曲第5番 嬰ハ短調
サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:2002年9月7-10日、ベルリン、フィルハーモニー、ライブ録音
EMI(輸入盤 5 57385 2)

 なぜ衝撃的かというと、このCDの音がまともではないとずっと断言してきたからです。大音量でこのCDをかけるとすばらしい音で聴けると噂では聞いていました。しかし、家族がいる場所で、あるいはご近所様の目がある場所で好き放題の音量でCDを聴ける人は稀です。私の以前の装置で、極端な大音量でこのCDを聴いたことは一度もありません。そのせいなのか、貧弱な音のCDだと思っていました。別にこのCDに限らず、ラトルのCDには貧弱な音のものが多いとも思ってきました。マーラーの5番は、鳴り物入りで喧伝されただけにCDを買って聴いたときの落胆は今も忘れられません。

 ところが、このCDを今聴いてみると、大音量でもないのに何とも生々しい音が聴けるではないですか。「今まで私が聴いていた音は何だったのか」と首を傾げてしまいます。お陰で、ちょっと音を確かめるつもりでかけたこのCDを通して聴いてしまいました。実は凄い音が収録されていたCDだったのですね。ついでに昔1度聴いてうんざりしたラトル指揮バーミンガム市交響楽団によるブルックナー:交響曲第7番を聴いてみると何ともみずみずしく素敵な音が聴けるではないですか。オーディオの環境によって演奏の評価まで変わってしまうのですね。

 もっとも、相当な費用をかけたオーディオ装置でなければその真価が伝わらないものが名録音と呼べるのか大いに疑問が残ります。

 

■ 次には・・・

 

  冒頭に述べたように私はオーディオマニアではないと自分では思っていますが、ここまで費用をかけてしまうと周囲からはマニアと思われてしまう可能性があります。ですが、私にとってオーディオはあくまでもブラックボックスなので、どの部分がどのように今の音に作用したのか検証することもできませんし、するつもりもありません。

 そうは言ってもオーディオのグレードアップによって今までとは違う世界が目の前に広がってきたことは確かです。次はスピーカーのグレードアップを目指したいところですが、これがいつ実現するのか、実現するまでに家庭内闘争がどれほど激烈になるのか想像もつきません。

 

(2008年7月23日、An die MusikクラシックCD試聴記)