アーノンクールに開眼する

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 血の通った「我が祖国」

CDジャケット

スメタナ
交響詩「我が祖国」
アーノンクール指揮ウィーンフィル
録音:2001年11月3〜7日、ムジークフェラインザール、ライブ
BMG(国内盤 BVCC-34090-91)

 

 アーノンクールがウィーンフィルを指揮したCDが今年立て続けにBMGから発売された。ここで告白しておくが、私にとってアーノンクールは最も苦手な指揮者の一人であった。それ故、CDを買うのもあまり気が進まない。しかも、買ってきても勉強のために1度聴いてすぐCD棚にしまい込むのが通例である。あの独特のアクセント、フレーズをぶつ切りにする音楽に生理的にどうしても耐えられないのである。この「我が祖国」も、期待せずに買った。大好きなこの曲であったればこそ購入したのであって、アーノンクールだから買ったのではない。

 しかし、このCDを聴いて以来、私のアーノンクール観は完璧に変わってしまった。聴いて驚嘆してしまったのである。「どこをどう聴いてもスメタナの音楽が躍動しているじゃないか! アーノンクールってこういう演奏をする人だったんだっけ?」というのが私の最初の感想である。もしかしたらこれはアーノンクールの指揮した曲としては強烈さが少ない、彼独特の語法が影を潜めた演奏なのかもしれないが、もしそうだとしても最初から最後まで血が通った演奏だと思う。発売されてからというもの、私はこのCDを何度も繰り返し聴き、堪能してしまった。この名曲に対し、非の打ち所のない名演奏で、さらに見事な録音状態である。国内盤にはアーノンクール自身による解説まで付いており、まさに完璧。近年クラシックCDの新譜が寂しい状態にあって、これだけ価値が高いCDが世に送り出されるとは嬉しいものだ。

 私はクーベリックの「我が祖国」のファンで、あの一連の録音があれば、十分満足できると思ってきた。特に1971年にボストン響と録音したグラモフォン盤に匹敵する録音はそうなかなか現れないだろうと考えてきたが、ここにきてアーノンクール盤が大きく浮上してきたことになる。国内盤は2枚組CDで3,000円になるのだが、これほどの出来映えなら誰にでも推薦できる。もっというと、人にプレゼントするのにこれは最適のCDである。

 ところで、アーノンクールはブルックナーの交響曲第9番のCDも出したのである。

CDジャケット

ブルックナー
交響曲第9番
アーノンクール指揮ウィーンフィル
2002年8月14〜20日、ザルツブルク祝祭大劇場、ライブ
BMG(国内盤 BVCC-34080-81)

 

 私はかつてアーノンクールがコンセルトヘボウ管を指揮したブルックナーの交響曲第3番(1994年録音、TELDEC)を聴いてひどく落胆し、「この指揮者のブルックナーを好きになることは一生あるまい」とまで思ったことがある(今は別です。念のため)。不思議なものだが、そのアーノンクールが指揮した交響曲第9番は理想的なブルックナー演奏の一つだと思う。全体の構築感、壮麗な響き。ややクールに見えながらも実際には極めてホットな演奏が繰り広げられており、感動的である。スメタナ同様、オケの響きが美しく、それを録音スタッフが見事にとらえているのも嬉しい。

 また、このCDには、未完とされる第4楽章の断片が収録されている。アーノンクールは、2002年のザルツブルク音楽祭におけるワークショップでウィーンフィルを指揮しながらこの第4楽章についてのレクチャーを行っている。その模様がCDの1枚目に収められている(ドイツ語と英語によるレクチャーがそのまま収録されている)。私が国内盤を買ったのは、その解説を日本語で読みたかったからだが、これは大変充実したもので、資料として読み、聴くだけでも十分な価値がある。アーノンクールとウィーンフィルが演奏する第4楽章の断片は、その巨大さの片鱗を伺わせる立派な音楽で、断片でありながら響きはブルックナーそのもの。聴いていて興奮せずにはいられない。これまた優れたCDである。

 ・・・というわけで、一挙にアーノンクールファンになった私は手持ちのアーノンクールのCDを片っ端から聴き返し、足りない分は買い足してそれをまた片っ端から聴いているという有様である。40を過ぎてやっとアーノンクールの音楽に開眼したというところか。私はこの指揮者の音楽が急に自分の身近に迫ってきたことに驚きを禁じ得ない。ついこの前までアーノンクールを避け続けてきたが、それがまるで嘘のようである。今後は積極的にアーノンクールを追っていきたいと考えている。

 

(2003年12月25日、An die MusikクラシックCD試聴記)