枯淡のブラームスを聴く

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CDジャケット

ブラームス
交響曲第4番ホ短調作品98
ザンデルリンク指揮シュターツカペレ・ドレスデン
録音:1972年3月、ルカ教会
DENON(国内盤 COCO-78375)

 これは大変渋いブラームスだ。これ以上渋いブラームスは私のCD棚にはない。しかし、このCDが日本のクラシックファンに与えた影響は計り知れない。

 ザンデルリンクは1990年にベルリン響を使って、優れたブラームス全集を作った。それはまさに至宝というべき仕上がりで、ブラームスファンだけでなく、クラシックファンなら誰にでもお勧めできるCDである。

 一方、この72年ドレスデン盤は、信じがたいほどの地味さだ。まず、今風でない。オケの機能美を前面に出した演奏でもなく、熱烈な演奏であるわけでもない。音楽は淡々と流れ、過ぎていく。オケの響きはそれこそ枯淡。半分枯れた感じがする。これではまず一般受けすることはないと思う。玄人受けするCDだろう。

 にもかかわらず、この録音は古くからザンデルリンクの名盤として語り継がれている。私が高校生だった20年以上も前、ザンデルリンクといえば必ずこの録音(当時はLP)が引き合いに出されていた。また、「田舎風のブラームスなら、これが一番」とされていたとも記憶している。ブラームスの交響曲第4番は元来派手な曲ではない。ブラームスの渋さが顕著に現れた曲だと思う。ところが、当時も実際は華麗な録音が多かったのだろう。この録音は、そうした録音に対するアンチ・テーゼとして重宝されたのではないかと私は勘ぐっている。

 発売したのが日本コロムビア(DENON)であったことが、この録音が広く流通した最大の理由だろう。国内大手が売り出し、評論家も熱心に宣伝していたのだから、おそらくこの録音を耳にしたクラシックファンは多いと思う。そこで、私の疑念が生じる。いわゆる「いぶし銀の響き」を音楽ファンに聴かせたのは他ならぬこの録音ではないか? その結果、この枯れた響きの録音がドレスデンの音として長く記憶されるようになったのではないだろうか? まず間違いないと私はにらんでいる。

 DENONはこの名盤のリマスタリングに際し、「コピーされたアナログ・オリジナル・テープではなく、さかのぼって一世代目のオリジナルのマスター・テープを使」ったという。そうだとすると、「これがカペレの音だ!」と誰もが信じたくなる。ところが、私はこの録音は正しく当団の音を捉えていないと考えている。BERLIN Classicsや徳間ジャパン(ドイツ・シャルプラッテン)、EMI、DG、PHILIPSなどのレーベルで聴かれる当団の音とは違っているところを感じる。カペレの響きは確かにきらびやかではない。その点だけを考慮すると名録音なのだが、本質的に違う。当団の響きはもっとまろやかなものだ。各セクションの音色が絶妙にブレンドされる。それが人間の体温を感じさせるほどの暖かみを聴衆に与えるのである。72年盤にはそれがない。もしかしたら、制作者側による作為的な音作りがあったのではないかとさえ私は疑念を抱いている。したがって、演奏はともかく、私はこのCDを聴くたびに非常に複雑な気持ちにならざるをえない。

 なお、この録音のディレクターに Heinz Wegner という人の名前が記載されているが、90年ベルリン響との全集も彼が監督している。彼なら、きっと二つの録音にまつわる音作りの裏話を知っているはずだ。

 最後に。以上は私の勝手な憶測である。全く違った聴き方をされた人もいらっしゃるはず。このCDの音に関するご意見をいただきたく、お願い申しあげます。

 

1999年10月14日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記