ペーター・ダムのR.シュトラウスを聴く

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CDジャケット

R.シュトラウス
ホルン協奏曲第1番変ホ長調作品11
ホルン協奏曲第2番変ホ長調作品86
ハインツ・レーグナー指揮シュターツカペレ・ドレスデン
録音:1970年、ルカ教会
ウド・ツィンマーマン
新しいディヴェルティメント(Nouveaux Divertissements)
ウド・ツィンマーマン指揮シュターツカペレ・ドレスデン
録音:1989年、ルカ教会
以上、ホルン演奏ペーター・ダム
BERLIN Classics(輸入盤 0091802BC)

 「ペーター・ダムが演奏したモーツァルトのホルン協奏曲のCDではまだ満足できない」あるいは「もっとペーター・ダムを聴いてみたい!」という方に贈るCDがこれ。

 私はモーツァルトは好きだが、モーツァルトの曲がすべて傑作だとは思っていない。お叱りを受けそうだが、ホルン協奏曲も4曲あるのにどれもそっくりで、それぞれの違いがよく分からない時もある(私だけかな?)。そのため、演奏によっては単調さを免れない。ペーター・ダム&ブロムシュテットのCDはそのようなことがないが、それでもこの曲が肌に合わない方もいらっしゃるだろう。それならR.シュトラウスのホルン協奏曲を聴くに限る。

 R.シュトラウスのホルン協奏曲は2曲あり、第1番は1883年、R.シュトラウスが19歳の時に作曲された。一方、第2番はその60年後、功成り名を遂げた後に78歳で作曲されている。ご存知のとおり、R.シュトラウスは自らの大規模な管弦楽曲の中で、極めて効果的にホルンを用いた人であるだけに、そのホルン協奏曲も傑作であると思う(なお、玄人筋の受けは2番の方に分があるが、私は1番の方が好きである)。

 前置きはともかく、このCDで聴くダムのホルンは心底すばらしい。ダムがライプツィヒ・ゲヴァントハウス管からカペレに移ってきたのは1969年であるから、この録音が行われたのはその翌年ということになる。演奏の立派さを鑑みるに、既にカペレ首席ホルン奏者として揺るぎない地位を得ていたものと思われる。ダムは朗々としたホルンを聴かせてくれており、その響きにうっとりする人も多いだろう。

 もちろん、ダムのホルンの魅力は単に朗々としているだけではない。何を隠そう、このホルンは「角笛」と聞き間違いそうな音色なのだ。おそらくオケに角笛が持ち込まれたら、きっとこのような音がするに違いない。ことに協奏曲第1番を聴いていると、本当に山の中にいるような気がしてくる。特に第1番では顕著である。

 例えば、ドイツやオーストリアの夏山。山といっても険しい山ではなく、半分牧場が広がっているような風景を思い浮かべていただきたい。その山を登っていくと、少し鬱蒼とした森がある。そこをしばし歩いていると、遠くで角笛の音が聞こえてくる。のどかな気分が一面に漂う。ダムの音色はまさにそんな情景がぴったり似合う。このすばらしさをほかに何と表現して良いか、私は分からない(これが決して誇張でないことは、クラシックなど聴いたことがない義母が「まるで山の中にいるようだ...」と溜息混じりに言ったことでも証明される)。これは癖のない自然な雰囲気の録音を含め、大変優れたCDだ。大推薦したい。

 ところで、このCDにはウド・ツィンマーマンが1987年にカペレのために作曲し、他ならぬペーター・ダムに献呈した「新しいディヴェルティメント(Nouveaux Divertissements)」が収録されている。いわゆるバリバリの現代音楽というわけではないが、落ち着かない微妙な情緒が横溢する曲であるため、私はあまり好きではない。が、ダムに献呈されただけあって、ホルンの秘術を「これでもか、これでもか」と聴かせる曲で、天才ダムの驚異的な技術を味わうに打ってつけともいえる。

 

 

CDジャケット

R.シュトラウス
ホルン協奏曲第1番変ホ長調作品11
ホルン協奏曲第2番変ホ長調作品86
ホルン演奏ペーター・ダム
ルドルフ・ケンペ指揮シュターツカペレ・ドレスデン
録音:1975年、ルカ教会
EMI(国内盤 CLC-1068-70)

 ペーター・ダムが吹いたR.シュトラウスのホルン協奏曲はもうひとつある。ケンペ指揮の有名なR.シュトラウス管弦楽曲全集に含まれる録音である。録音時期はレーグナー盤からさらに5年を経た1975年。録音会場はレーグナー盤と同じルカ教会である。同じ録音会場だし、収録時期も5年しか違わないから、ほとんど同じCDになると誰もが思うだろう。それが全く違うから面白い。

 何といっても音が全く違う。レーグナー盤が自然な雰囲気でソフトな音色を楽しめたのに対し、こちらはオケもソロもやや派手で、華麗である。これは指揮者ケンペの快活な音楽作りの影響でもあるが、ペーター・ダムのホルンはレーグナー盤にもまして明るく、スカッとした音色を聴かせる。ホルンの音色を聴くと紛れもないダムの音なのだが、ケンペ盤では芯がずっと太く、逞しい。豪快な吹き方をしている場所も散見される。ホルンをのどかに奏でていたレーグナー盤とはまるで違う音楽だ。第1番第3楽章などは豪華絢爛な感じがする。第2番では、レーグナー盤には見られなかったエネルギーの発散があり、思わず目を見張ってしまう。うーん、これは楽しい。指揮者や発売するレーベルによってこれだけ変わって聞こえてしまうところに、クラシック音楽をCDで聴き比べする楽しみがあるわけだが、これは極端ともいえる例であろう。

 では、レーグナー盤とケンペ盤のどちらが良いか? もちろんどちらも良いし、両方を聴くべきである。私はそうしている。しかし、現状ではケンペ盤は3枚組の輸入盤でしか聴けない(管弦楽曲全集にすると3セットで9枚になる)。ケンペの国内盤は99年9月現在は廃盤になっており、まとまった形でも出ているものの、東芝EMIの「CLASSIC 21」の会員しか買えない。それも1セットの9枚組全集である。私が愛聴しているのはその会員限定盤で、R.シュトラウスのホルン協奏曲はその"DISC 8"に収録されている。"DISC 8"には「オーボエ協奏曲ニ短調」「二重小協奏曲(ハープをもつ弦楽オーケストラと、クラリネットとバスーンのための)」が収録されている。この録音の紹介は別の機会に譲るが、いずれも非常に優れた演奏である。"DISC 8"が単体で発売されれば、存在を脅かされるCDも少なくないはずだ(危ないので「どれ」とはいえない)。

 いつも思うのだが、EMIは膨大な有名アーティストの音源の上に胡座をかいてしまって、自社が持つ、こうした地味な演奏家の地味な曲の録音に興味を示さないようだ。全く宝の持ち腐れであると私は思う。

 

1999年9月27,28日、An die MusikクラシックCD試聴記