ブロムシュテットのシューベルト

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CDジャケット

シューベルト
交響曲第9番ハ長調「グレイト」
ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン
録音:1981年、ルカ教会
徳間ジャパン(国内盤 TKCC-70264)

 シュターツカペレ・ドレスデンはウェーバーやワーグナー、R.シュトラウスのオケとして名を馳せている。そうした作曲家の音楽については、このオケも伝統的な演奏スタイルを持っている。名演が生まれる素地は十分にある。が、シューベルトは特に深い縁があるというわけでもないのに、すばらしい演奏をする。まさにお家芸と言ってしまいたくなるレベルである。この「グレイト」も歴代の指揮者による様々な録音が残されており、それを聴き比べするだけでも非常に楽しい。最も有名な録音は79年にカール・ベームが指揮したライブ盤であろう(DG)。

 しかし、このブロムシュテット盤を忘れてはいけない。全く日の目を見ないCDであるので、あえて今回は取り上げてみたい。忘れ去られるにはもったいなさ過ぎる。ブロムシュテットは非常に地味な指揮者であった。シュターツカペレ・ドレスデンでは1975年から85年まで首席指揮者を務めた。その間、数々の録音を行ってはいたが、日本では主として徳間ジャパンが販売を行っていたためか、ぱっとしない印象が強かった。CDジャケットも徳間あるいはドイツ・シャルプラッテン社らしく地味なものが多かったから、購買意欲も湧かないクラシックファンも多かったと思う。

 しかし、いかに地味そうに見えても、音楽の善し悪しとは直接に関係がない。今になって振り返ってみると、ブロムシュテットがシュターツカペレ・ドレスデンの首席指揮者であった期間はまさにこのオケの黄金時代とも呼べるのではないかと私は思っている。

 ブロムシュテットは決して派手な効果を狙う指揮者ではない。が、味わい深い名演奏をたくさん残した。ブロムシュテットは85年にサンフランシスコに渡り、DECCAと契約して大量のCDを発表してから、急浮上した指揮者のように見えるが、決してそうではない。もともとすごい指揮者だったと思う。売り出し方が地味なだけで、音楽性は極めて高い。プロモーションの重要性が分かる典型例だと思う。この指揮者はどんどん成長を続けているので、今後さらに大化けするかもしれない。楽しみな指揮者である。

 それはさておき、「グレイト」だ。これは、できれば静かな環境で聴きたいCDである。冒頭のホルンを心ゆくまで味わえるからだ。そのホルンの音色はとても柔和で、それだけ聴けば、「ああ、これはいい演奏だ」と分かる。わずか数小節のホルンの響きが聴き手をシューベルトの世界に誘う。ドレスデンのホルンセクションのすばらしさは、いくら力説しても構わないと私は考えているが、この冒頭ホルンはその白眉である。それだけで周囲はふんわりとした雰囲気に包まれる。

 演奏は単にソフトなだけではなく、力感もあるし、重量感もちゃんと感じられるが、全曲から感じられるのは言葉にしようもない幸福感である。最高のアンサンブル。美しく溶け合う柔らかな音色、特に、オーボエをはじめとする木管楽器の魅惑的な音色と、弦楽器群の音と融和していく金管楽器群の響き。これだけの条件が揃ってしまえば、悪い演奏になるわけがない。しかも指揮をしているのはこのオケを知り尽くしている名指揮者ブロムシュテット。名盤になるのは当然なのである。シューマンがいう「天国的な長さ」はこの演奏を聴けば実感できると思う。ただ長いだけの退屈な「グレイト」を聴いてきて、「もうこの曲は聴きたくない」という人にお勧めの一枚。このCDを聴けば、何度も繰り返して聴きたくなるはず。私も繰り返し聴いた。古楽器による録音が増大する中で、モダン楽器のよるこうしたスタイルの演奏は時代遅れになりつつある。が、私はこれが最高のシューベルトであることを保証する。

 私が持っているのは1000円の廉価盤である。これほど高水準のCDを廉価盤で聴けるとは。

 

1999年9月21日、An die MusikクラシックCD試聴記