クーベリックの指揮でフェルステル「交響曲第4番《復活祭前夜》」を聴く

文:松本武巳さん

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CDジャケット
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フェルステル
交響曲第4番作品54『復活祭前夜』
ラファエル・クーベリック指揮
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1948年1月17日、プラハ
SUPRAPHON(国内盤 COCO-80363)

■ チェコ生まれの作曲家、評論家、音楽教育者であったフェルステル

 マーラーの伝記を紐解くと、友人あるいは支持者としてフェルステルの名前が挙がっている。そんなヨゼフ・ボフスラフ・フェルステル(Josef Bohuslav Foerster, 1859年12月30日 - 1951年5月29日)はチェコの作曲家、音楽評論家であり、オーストリア帝国領であったプラハに生まれ、プラハ音楽院に学んだ。オペラ歌手ベルタ・ラウテラーと結婚してハンブルクに移り、音楽評論家として身を立てるが、同地で出身も年齢も近いマーラーの音楽を知り、支持者となった。1901年にはハンブルク音大の教授に就任。1903年にウィーンに移り、教壇に立つかたわら作曲活動や評論活動も続けた。

 後にオーストリアから独立したチェコ・スロヴァキアに帰国し、1922年から1931年まで母校プラハ音楽院で教鞭を執り、1939年には音楽院の院長に就任した。大戦後の1946年に人民芸術家に任命されたが、1951年プラハ東部のノヴイ・ヴェステチにて他界した。音楽評論家としてマーラーを支持したが、作曲家としてのフェルステルは、チェコの先輩であるドヴォルザークらの伝統を受け継ぎ、一方でシューマンにも類似した面をみせつつ、楽曲の規模や楽器編成、和声法の上では後期ロマン派らしい傾向を見せている。しかし同時に音楽の形式としては、ブラームスに近い頑なな古典派としての、そんな作風の面も持ち合わせている、なかなか一筋縄ではいかない作風と言えるだろう。

 1890年に書かれた交響曲第2番は、彼の友人でもあったマーラーが高く評価したといわれる作品で、葬送行進曲とスケルツォが見事な対比を描いた若書きの力作である。交響曲は全部で5曲残しており、その中では第4番が最も有名で、クーベリック以外にも、アンチェル、スメターチェクの録音などが残されている。

 また、最近では、チェコ生まれの俊英指揮者ヤクブ・フルシャが、2016年から首席指揮者として在任中のバンベルク交響楽団と、プラハのドヴォルザーク・ホールに凱旋公演し、2021年9月に以下のプログラムでコンサートを指揮した。マーラーの交響曲第5番からアダージェット、ソプラノのカテリーナ・クネージコヴァを迎えて、リヒャルト・シュトラウス『4つの最後の歌』、そしてフェルステルが1905年に書いた交響曲第4番という、そんなプログラム構成であった。
 

■ マーラー交響曲第6番と同年にウィーンで作曲された交響曲第4番

 

 フェルステルの交響曲第4番は、ウィーンに転居した1903年から1905年にかけて作曲された彼の代表作である。1905年と言えば、マーラーが交響曲第6番を完成させた年でもある。伝統的・古典的な4楽章の交響曲として作曲されている。第1楽章は、いわば葬送行進曲であるだろう。しかし、第2主題あたりから突然音楽は盛り上がりを見せてくる。コーダは対位法的な書法で貫かれており、途中から盛り上がりを見せるものの、最後は荘厳な雰囲気とともに冒頭のような暗い音楽に逆戻りしつつ、静かに閉じる。

 第2楽章は、明るく牧歌的なスケルツォで、ボヘミアをどこか思わせるような作風である。この楽章だけを聴いていると、まるで後期ロマン派の音楽のように思えてくるだろう。第3楽章は、色彩感に溢れた緩徐楽章であり、コラール風のテーマが変奏されつつ、ハーモニーが徐々に広がっていくのだが、明るい雰囲気の第2楽章とは一転して、とても暗い音楽に終始する短い楽章である。

 

■ 終楽章におけるマーラーとの共通性とブルックナーの影響

 

 さて、第4楽章であるが、大きく2つの部分に分けて捉えることが可能である。序奏は重々しく開始されるが、徐々に音楽自体が明るい方向に転じてくる。金管楽器の咆哮が見られるあたりは、フェルステルのいつもの音楽づくりとは少し違う方向性を感じてしまうが、かえってこの交響曲が彼の代表作になった原因であるとも言えるだろう。その後ヴァイオリンが新たな主題を奏し、引き続いて甘美な音楽が訪れるが、ボヘミアの香りが濃厚に漂う箇所であるとも言えるだろう。さらに、このあたりの音楽の流れ自体からは、同じ年に完成されたマーラーの交響曲第6番とも何か共通する方向性も感じ取れ、むしろこのフェルステルの交響曲を聴くことで、マーラーの音楽が本質的に有している、ボヘミアの民俗性をも理解できるような気がしてくる。

 終結部では、オルガンの厳粛な響きが静かに遠くから現れてきて、気が付くと復活祭の音楽が高らかに、かつ天上へと全ての聴き手を誘うように、まるでブルックナーの交響曲の世界にいるかのような錯覚を持ちつつ、キリスト教讃歌を荘厳かつ高らかに歌って、燦然と輝きをもって曲は閉じられるのである。フェルステルが、ボヘミア生まれの作曲家であり、かつ終生敬虔なカトリック教徒であったことが実に納得できる、そんな交響曲第4番であると言えるだろう。

(2023年9月17日記す)

 

An die MusikクラシックCD試聴記 文:松本武巳さん 2023年9月17日掲載