「名盤の探求」

例5 日本制作

文:青木三十郎さん

ホームページ WHAT'S NEW? 「名盤の探求」インデックスに戻る


 
CDジャケット

『ピアノと鳥とメシアンと』”LE PIANO ET LES OISEAUX ET MESSIAEN”
メシアン
・異国の鳥たち
・鳥たちのめざめ
・七つの俳諧
・天国の色彩
ピアノ:木村かをり
岩城宏之指揮東京コンサーツ
録音:1972年7月,1973年3月 キングレコード第1スタジオ、東京
キングレコード (CD:KICC253 =1998/9発売)

 クラシック音楽のディスクでも(大曲は別ですが)、単に収録曲目が羅列してあるのではなく〔アルバム・タイトル〕が付いているものは、ちゃんと企画された好内容(≒名盤)であることが多い。前述の『ディアギレフを讃えて』もそうですし、『交響曲へのお誘い』はセンス悪い邦題だけどまぁ努力賞か、他にもたとえば『ザ・ライナー・サウンド』『ストコフスキー・スペクタキュラー』『ウィーンの休日』『ニュー・ワーグナー・デラックス』『ストラヴィンスキー・イン・アメリカ』『武満徹の宇宙』『功芳の艶舞曲』等々、タイトルを聴くだけですぐ内容が浮かんでくるものばかり。あくまでワタシの場合ですけど。あと最後のはどーでもいーです。

 この日本制作盤にも素敵なタイトルが。「メシアンの”ピアノとオーケストラ作品”のすべて」という具体的サブタイトルもあるのですが、鳥と自然をテーマにした戦後の作品で統一したのでこういう題をつけた、ということがブックレットに掲載されたプロデューサーの一文に書かれています。その文中で紹介されているもうひとつのテーマは、岩城木村両氏の〔結婚記念祝賀アルバム〕という側面。ピアノ協奏曲はぜったいイヤだと二人に言われたことに対してプロデューサーが投じた変化球が、この企画だったそうです。こういうストーリーも、結果としてできあがったアルバムのユニークな価値を高めているかのよう。

 そして、このブックレットがたいへん充実した労作なのです。メシアン自身をはじめ柴田南雄、別宮貞雄、小澤征爾、丹波明、横溝亮一の各氏による多角的な解説、日本野鳥の会支部長による随想(メシアンを軽井沢に案内したときの思い出)、写真や図版など全44頁にも及び、これを収納するため通常よりも厚いCDプラケースが使用されているほど。二枚組LPに付けられていた解説書が、レイアウトはともかく内容的にはすべて網羅されたものとみてよいでしょう。ディアギレフのCD化とは大違いです。この情報量の多さと再現性の高さは、国内制作盤ならではのメリットではないでしょうか。武満徹や伊福部昭らのアルバムにも、作曲者本人が制作を監修していたり解説書がやたらと詳しかったりするものが多いですし。

 しかしこの『ピアノと鳥とメシアンと』は当時不評で、芸術祭に落選して廃盤に。ところがLPの贈呈を受けたメシアン本人がいたく気に入り、彼の働きかけで仏デッカから発売され1975年度のACCディスク大賞を(日本製として初めて)受賞したという、いわくつきの名盤。いま聴いてみると、編集作業に一曲あたり一週間かけたというだけあって隅々までキッチリ整えられた演奏という印象です。ワクワクするおもしろみには欠けるものの、じつに明晰でありながらなんともいえぬ詩情が感じられる瞬間も。それに、懇切丁寧な解説書を読みながら聴くと楽曲を理解できた気になる。まさに「レコード芸術」というべき完成度の高さといえましょう。

 これほどの大名盤を制作・所有していながら、昨年のメシアン生誕100年の好機に再発売をしなかったキングレコード社はいったいなにを考えとるねん!と苦言を呈したいと存じます。

 

2009年6月6日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記