ドヴォルザークの歌劇「ジャコバン党員(ドイツ語歌唱、抜粋盤)」を聴く

文:松本武巳さん

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CDジャケット

ドヴォルザーク(ドヴォジャーク)

歌劇「ジャコバン党員」作品84(抜粋)

  • ズヴェン・ニルソン(Bs)
  • マシュー・アーラースマイヤー(Br)
  • マルガレーテ・テシェマヒャー(Sp)
  • ハインリヒ・プフランツル(Bs)
  • ローレンツ・フェーエンベルガー(Tn)

カール・エルメンドルフ指揮
ドレスデン国立歌劇場管弦楽団、同合唱団、同少年合唱団
録音:1943年、ドレスデン、ゼンパーオパー
Profil (輸入盤 PH 07031)

 

■ オペラ「ジャコバン党員」について

 

 18世紀末のボヘミアを舞台とするこのオペラは、1898年にプラハで初演された。ドレスデン国立歌劇場(ゼンパーオパー)による1943年の演奏である。生き生きとした田舎の生活や叙情的な愛のシーンの描写、そしてとてもドラマティックなクライマックスの情景。これらを見事なまでのコントラストをもって表現した、ドヴォルザークの作品である。ドヴォルザークは生涯に11のオペラを作曲したが、基本的にチェコ語のオペラであり、「ルサルカ」以外の10の作品は、残念ながら現在はあまり上演されていない。この三幕から構成された「ジャコバン党員」も、そんな上演機会に恵まれないオペラのひとつである。なお、この1943年ドレスデンでの上演は、ドイツ語歌唱で上演されている。

 舞台は18世紀末のボヘミアの田舎の村。ボヘミア地方のハラソフ伯爵の息子ボフシュは父親の反対を押し切って駆け落ちしてパリに行くが、フランス革命が勃発し故郷に戻ってくる。しかし母親はすでに亡くなっており、伯爵は息子を勘当し跡継ぎに甥のアドルフを指名する。アドルフは宮廷長のフィリップと組んで権力を恣にしている。パリ帰りのボフシュはジャコバン党員であるというデマを流され、なんと投獄されてしまう。妻のユーリエは八方手を尽くし伯爵に近づき、ボフシュが子供の時に母親に歌ってもらった子守歌を歌うと、伯爵は感動して息子を許すことにする。さらにボフシュが投獄されている事実を知って、反対にアドルフとフィリップを追放する。妻のユーリエは村のカントルを務めるベンダの助けを借りて、村人とともに甥アドルフの悪巧みを暴き、夫ボフシュの名誉と地位を回復する。

 ジャコバン党はマキシミリアン・ロベスピエールに率いられ、フランス革命を主導したことで有名であるが、投獄や殺戮等の苛烈な手段によって反対する者を弾圧し、いわゆる恐怖政治を行ったために反発を招き、テルミドール反動により処刑されジャコバン党員は権力から一掃されてしまった。オペラの筋書き自体は本質的に単純なストーリーで、オペラとしてあまり上演されない理由は、チェコ語で書かれた作品であるだけでなく、オペラの筋書きの単純さにもあると言われている。

 

■ 指揮者エルメンドルフについて

 

 カール・エルメンドルフ(Karl Elmendorff, 1891 – 1962)は、ドイツの指揮者で、1891年デュッセルドルフに生まれた。1913年からケルン音楽院でフリッツ・シュタインバッハとヘルマン・アーベントロートに師事し、1916年にデュッセルドルフでデビューした。1920年から1923年までマインツの歌劇場の指揮者を務め、1925年から1932年までミュンヘン国立歌劇場の指揮者を務めた。また、1927年から1942年までバイロイトで指揮者を務め、この録音当時の1943年から1944年まで、短期間ではあるがドレスデン国立歌劇場の音楽監督を務めている。1948年からはカッセルで活躍し、ミラノのスカラ座へも何度となく客演し、ワーグナーの作品をイタリアに積極的に紹介する一方で、ドイツの歌劇場では、多くのイタリア・オペラを取り上げて上演していた。1962年10月21日、ドイツのヘッセン州ホーフハイム・アム・タウヌスにて死去した。

 このディスクは、エルメンドルフがドレスデン国立歌劇場の音楽監督を務めた時期の貴重な録音である。抜粋盤で全体の4割程度しか収録されていないが、短かったとはいえエルメンドルフとドレスデン国立歌劇場の関係が良好であった証として、とても貴重な録音であると思われる。また、音質も十分聴くに耐えうる良質なものである。ちなみに、1943年にベームの後任としてドレスデンに着任した際の最大のライバルであったのは、若いカラヤンであった。さらに、戦時下でありながらヤナーチェクの「イェヌーファ」のドレスデン初演を行い、1944年8月のドレスデン国立歌劇場閉鎖後もコンサートや演奏会形式でオペラの上演を行ったが、1945年2月13−14日のドレスデン絨毯爆撃で、ゼンパーオパーもろとも灰燼に帰したのである。エルメンドルフの在任期間が短いのはこのような事情によることと、演奏は戦時下の混乱状況を思わせることのない、非常にドラマティックで推進力の強い前向きな、かつ現代的な演奏である。このディスクの発掘が、エルメンドルフの再評価につながって欲しいと念願する。

 

■ 収録された内容について

 

 当抜粋盤には以下の内容が収録されている。オペラの主要部分は、ほぼ収録されていると言ってよいだろう。

第一幕

  • 僕たちはしばし待っている
  • あぁ私の美しいひと、あぁ私の愛らしいひとの
  • 今日、小さな美しい歌を
  • おろか者を待て
  • とにかく君と話したいんだ
  • 私の目を見て

第二幕

  • どうしてそんなに不機嫌に
  • どうやって私は耐えればいいのか
  • さらなるよそ者にわれわれは《故郷の歌》
  • 今日君もが勝利を収めたとき

第三幕

  • 従順に私はひざまづきます
  • なんと美しい
  • かわいい子よ、お眠り
  • ご主人様、おゆるしを!
  • わが息子よ!わが息子よ!
 

■ 原語による全曲盤の紹介

CDジャケット

 オルフェオから出ている、ゲルト・アルブレヒト指揮ケルン放送交響楽団他による2003年の録音が、チェコ語による原語上演であり、カットなしの全曲盤でもある。150分を超えるこの大作オペラの全容を聴くことができるので、ここでディスクの紹介をしておきたいと思う。

 また、チェコの名指揮者であったビェロフラーヴェクも、晩年の2012年にこの曲をBBC交響楽団とともに、コンサート形式で取り上げて演奏したことがあることも、最後になるがぜひ紹介しておきたい。

 

(2019年4月21日記す)

 

2019年4月21日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記