シューマンのピアノ曲・歌曲の管弦楽編曲版あれこれ

文:松本武巳さん

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CDジャケット

シューマン(グラズノフ編曲)
謝肉祭 作品9
エルネスト・アンセルメ指揮
スイス・ロマンド管弦楽団
録音:1950年代
DECCA(輸入盤 475 814 0)

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シューマン(ラヴェル編曲)
謝肉祭 作品9より第1,16,17,21曲
レナード・スラトキン指揮
フランス国立リヨン管弦楽団
録音:2013年10月、フランス・リヨン
NAXOS(輸入盤 8.573124)

LPジャケット シューマン(チャイコフスキー編曲)
交響的練習曲 作品13より第11変奏曲、終曲
ゲラルド・シュワルツ指揮
シアトル交響楽団
録音:1988,1992年、アメリカ・シアトル
NAXOS(輸入盤 8.572770)
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シューマン(J.ジェイムズ編曲)
幻想曲 作品17
オルランド・ジョプリン指揮
イギリス室内管弦楽団、シューベルト・アンサンブル
録音:2005年9月、イギリス・ロンドン
Signum Classics(輸入盤 SIGCD095)

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シューマン(ヨーゼフ・シュトラウス編曲)
子どもの情景 作品15より第7曲「トロイメライ」
アルフレート・ワルター指揮
ブダペスト・シュトラウス交響楽団
録音:1994年4月、スロヴァキア・コシチェ
Marco Polo(輸入盤 8.223562)

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シューマン(J.シュトラウス二世編曲)
ミルテの花 作品25より第1曲「献呈」
ミハエル・ディトリッヒ指揮
スロヴァキア放送交響楽団
録音:1993年6月、スロヴァキア・ブラティスラヴァ
Marco Polo(輸入盤 8.223246)

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 シューマン(サン=サーンス編曲)
6つの歌 作品107より第6曲「夕べの歌」
ネーメ・ヤルヴィ指揮
デトロイト交響楽団
録音:1993年1月、アメリカ・デトロイト
CHANDOS(輸入盤 CHAN9227)

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シューマン(テオドール・W・アドルノ編曲)
子どものためのアルバム 作品68より第13曲「美しい5月‐お前はまたやってきた」
ディルク・イェレス指揮
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1997年8月、イギリス・ロンドン
BIS(輸入盤 BIS-CD-1055)

 

■ 傑作も多いシューマンのピアノ曲などの管弦楽編曲

 

 シューマンは、元来ピアニストを目指していたためか、一般的にオーケストレーションがあまり上手くなく、交響曲などは現代でもマーラー編曲版で録音する指揮者が垣間見られる。ところが、お得意のピアノ曲を他人が管弦楽曲に編曲した録音も、実は結構多く存在しているので、今回はそれらをまとめて紹介したいと思う。しかし、ここに挙げた8枚の編曲版の編曲者には、恐ろしく著名な作曲家たちが軒並み並んでおり、シューマンのピアノ作品やピアノ伴奏用歌曲の秘められた魅力を大いに感じさせるラインアップでもある。以下、順に簡単に紹介していきたい。

 

■ 謝肉祭の管弦楽編曲版

 

 ほぼ全曲を忠実に管弦楽編曲したグラズノフと、4曲だけを編曲したラヴェルの2種類を並べてみた。それぞれ聴きどころはあるが、ラヴェルはディアギレフの依頼により4曲だけを管弦楽曲に編曲したものである。前者はアンセルメの指揮で後者はスラトキンの指揮である。個人的にはグラズノフ版は、さすがに30分近い長大な編曲版なので、途中で胃もたれがするようなところもあるが、貴重な編曲・録音であるともいえるだろう。ラヴェルの方は、煌びやかにかつコンパクトにまとまっており、とても聴き映えがする編曲であるといえるだろう。

 

■ 交響的練習曲と幻想曲の管弦楽編曲版

 

 私には、この交響的練習曲からの編曲が最もしっくりくる優れた管弦楽編曲であるように思える。もちろん、素材自体も多少は管弦楽曲化し易い素材だといえるだろう。しかし、チャイコフスキーが実に見事なオーケストレーションで、堅固な構成力をもった優れた管弦楽曲に生まれ変わらせたといえるだろう。機会があれば特に聴いてほしい編曲である。

 一方の幻想曲全曲の管弦楽編曲は、さすがに少々厳しい側面が感じられた。確かに労作ではあるのだが、そもそも幻想曲はきわめてピアニスティックな楽曲であり、かつ長大な楽曲でもあるために、全曲を管弦楽曲化するのは、やはり少々無理があったように思えるのだ。資料としての価値は高いものの、聴いて楽しむと言う面からは、少々厳しいといえるだろう。

 

■ トロイメライと献呈の管弦楽編曲版

 

 まず、子どもの情景からのトロイメライは、奇才指揮者ストコフスキーの管弦楽編曲版が広く知られているように思うのだが、このヨーゼフ・シュトラウスの編曲版は、あまり知られてはいないものの絶品であるように感じる。原曲自体がきわめて有名なメロディーなので、機会があればぜひ聴いてみて欲しいと思うし、ストコフスキーの編曲版とも聴き比べて欲しいと思う。

 一方のミルテの花からの献呈は、シューマンのいわばクララへのラヴレターである歌曲なのだが、フランツ・リストが実に絢爛豪華なピアノ曲に仕立て上げてしまい、シューマン夫妻の不興を買ったことで知られている曲である。しかし、このヨハン・シュトラウス二世の編曲版は、実にエレガントな気品ある管弦楽曲に生まれ変わっており、まさに踊り出しそうな雰囲気に溢れているといえるだろう。こちらも、あまり知られてはいないと思うが、機会があればぜひ聴いてほしいと思う編曲である。

 

■ 歌曲からの編曲をもう1枚紹介する

 

 6つの歌作品107から「夕べの歌」を、サン=サーンスが管弦楽に編曲したヴァージョンが存在しており、ネーメ・ヤルヴィがデトロイト交響楽団を用いて録音を残している。比較的地味な楽曲であるし、特に曲自体は強く印象に残ることはないのだが、良く聴くと非常に長けたオーケストレーションが用いられており、サン=サーンスがわざわざこの小さな歌曲を取り上げた理由が垣間見られてくるような気がしてくる。また、そのような管弦楽技法を、ネーメ・ヤルヴィがきちんと細かい部分まで見通して指揮をしているので、ある意味勉強になるお手本としての価値もあるのではなかろうか。

 

■ 「美しい5月‐お前はまたやってきた」へのアドルノによる編曲

 

 最後に取り上げる「美しい5月‐お前はまたやってきた」は、シューマンの子どものためのアルバムからの1曲であるが、とても優れたピアノ曲であると思われるし、ピアノ曲としての素材がいっぱい詰まっている上に、聴き映えもする知られざる名曲である。これを、ナチス時代を生き抜いた音楽評論家でもあったアドルノが編曲した管弦楽曲版は、このピアノ小品の原曲の素晴らしさを再認識させてくれる編曲となっている。そもそもアドルノは、確かに音楽評論家として著名であるが、実際にはアルバン・ベルクと師弟関係にあり、当初は作曲家を目指していたのである。私は、この編曲をアドルノの代表作であると言っても過言ではないと信じている。そして、同時に原曲のピアノ曲がもっと人口に膾炙することを心から念願している。

 

(2020年5月2日記す)

 

2020年5月2日掲載、An die MusikクラシックCD試聴記