It's time for Tina.
Tina Louise
「It's time for Tina.」
ヴォーカル:ティナ・ルイス
演奏:バディ・ウィード&ヒズ・オーケストラ
録音:1957年頃
DIW(国内盤 DIW-322)ティナ・ルイスは知る人ぞ知る天下一品のお色気シンガー。その艶っぽい歌声は、世の殿方をことごとく悩殺するでありましょう。あの石原裕次郎もティナ・ルイスの大ファンだったそうです。ムード満点の歌いぶりですが、解説によると、この録音が行われた1957年頃、ティナはまだ10代だったとか。
ファンは裕次郎だけにとどまりません。密かに多くのファンがこのCDを聴いているようです。10代の女性の歌がまさか後世の音楽ファンを世界中で悩殺し続けるとはプロデューサーも想像だにしなかったでしょう。
今はこの録音もDIWから国内盤が発売され、容易に入手できるようになりましたが、LP時代は入手が困難を極めたそうです。解説にはオリジナルLPは数万円の高値で取り引きされていたとあります。それもそのはず。CDジャケットで見てもティナ・ルイスは魅力的です。お色気といっても諸肌脱いでいるわけではなく、そこはかとなく色気を感じさせるのであります(最近のクラシックCDのジャケットのように、意味もなく女性演奏家が大胆に肌を見せたり、胸の谷間を見せているのとはわけが違います)。このジャケットをLPサイズで見ればもっとよかったでしょう。LPからCDになって、ジャケット鑑賞をすることがよくよくなくなってしまいましたが、昔はLPを買う際にはジャケットの効果は絶大でした。いいジャケットのLPは所有して、飾っておくだけでも十分楽しめたからです。このティナ・ルイスのジャケットをLPサイズで鑑賞しながら、雰囲気満点の歌声を聞いていると、身もとろけるばかりになります。多分裕次郎も深夜にウィスキーでも飲みながら、この録音をゆっくり楽しんだのでしょう。
ティナ・ルイスは歌い手としては素人で、LP(CD)はこれ1枚しかありません。美貌を活かし、女優として少しは活躍したそうですが、アメリカ南部の大富豪に大金を積まれてさらわれていったそうです。しかし、たった1枚でも、これだけ後世に残る録音をしてくれたことは感謝すべきです。何枚も駄作を出すより、たった1枚想い出に残る録音をしてくれた方がいいのです。
お色気の話ばかりだと、私の人格が疑われる可能性がありますので、音楽についてちゃんと書かなければなりません。素人のお色気シンガーというと馬鹿にする人もいるかもしれませんが、なかなかいけます(ヘレン・メリルほどではないですが)。全12曲ありますが、最初から最後まで一つのストーリーになっています。夜出会い、会話を楽しみ、抱擁し、またの日を約束してしばしのお別れをする。それを全12曲で少しずつ歌っているのです。歌い方は落ち着いていて、とてもメロウです。10代の女性が歌うにはやや大人っぽい歌詞ですが、逆に大人の鑑賞に堪えるのです。なお、この録音に参加したジャズメンにはコールマン・ホーキンスなど、有名どころ。いい女にはいいジャズメンがつくのだそうな。
さて、このCDを私はどうやって知ったか? 普通は適当にCDを買う私も、このCDばかりはガイドなしには知ることもできなかったでしょう。ジャズ評論家の寺島靖国氏著「辛口! ジャズノート」(講談社+α文庫)で知ったのです。やはり先達はあらまほしきものですね。この本の中で、寺島氏はティナ・ルイスをヘッドフォンで聴いていると書いていますが、その気持ち、よく分かります。独り占めしたくなるんですね。
最後に、このCDは別にジャズ音楽ではありません。ジャズは聴かないという方でも全く問題なく聴けます。念のため。
収録曲
- Tonight is the night.
- Hand accross the table.
- Snugglled on your shoulder.
- Embraceable you.
- I'm in the mood for love.
- Baby, won't you say you love me.
- It's been a long, long time.
- Hold me.
- I wanna be loved.
- Let's do it.
- How long has this been going on?
- Good night my love.
1999年6月4日、An die MusikクラシックCD試聴記