オーディオはお金がかかる?

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 今使っているオーディオセットとは別に、もうひとつサブシステムがほしいので、オーディオに詳しい知り合いA氏にどんなものがよいか尋ねてみました。「女房子供が部屋にいないときには、そのサブシステムを使って本格的に音楽を聴くから、それに耐えるものを」という条件も付けました。A氏は広大なオーディオルームに、巨大なセットを配置し、実音と変わらないような音量でクラシック音楽を聴く方なので、それ相応のセットを紹介されるものと思って尋ねてみたわけです。

 ところが、驚いたことに、A氏は超小型のセットそれも、総額で45,000円にしかならないものを薦めてきたのです。それはSONYの製品で、「アクティブスピーカーシステム SRS-Z1」(通称「オズ」)(スピーカー2台アンプ1台1組)と、「CDウォークマン D-E01」です。前者は実売価格14,000円。後者は29,000円ほどでした(税抜き価格)。

 私は困惑してしまいました。「え? そんなものでちゃんとした音がするのかな?」と半信半疑でした。が、論より証拠、女房が実家に帰っている隙に早速秋葉原に遠征。電気屋さんに入ってみると、あります、あります。確かに小さいですねえ。

 でも、店の中では小さな音量でしか鳴っていないように思われました。よく耳を澄ませてみると、同じCDプレーヤーが、3つか4つくらい他のスピーカーに接続されていて、「オズ」単体の音を聴くことができないことも分かりました。本当にいい音で鳴っているのかどうか見当がつきません。あの環境で比較試聴するのはほぼ不可能です。「うーむ、これで本当に大丈夫だろうか?」と私はますます心配になってきました。それでもA氏の耳を信じている私は「えいっ」とばかりに買ってきたのであります。女房の恐い顔が一瞬頭に浮かびました。

 さて、自宅に帰ってきてこれを鳴らしてみると、すんごい音がします。まずは床に置いてみましたが、小型スピーカーとは思えないほどダイナミックなサウンド。音像がしっかりと定位し、しかも広大な空間で鳴り響きます。小型アンプと小型スピーカーですが低音までしっかり再生、しかも大音量にしても音のひずみを感じさせず、実にクリアです。これはびっくりです。「本当に45,000円の代物か?」と我が耳を疑ってしまいました。音量も自宅で聴くとかなり出ます。一体お店の環境は何だったんでしょうね? あれでは並べてあるだけで、善し悪しはまるで分かりません。

 で、「オズ」とCDウォークマン「D-E01」の組み合わせですが、場所もとらず、最高です。置き場所によって音がかなり変わるので、私は半日ほどかけてスピーカーの場所を移動させ、音の変化を楽しみました。まあ、生活もありますから、完全に「音」優先の設置はできないのですが、一応満足できる音がする場所に設置できました。

 こうなると、いろいろなCDをとっかえひっかえかけてみたくなります。まずはブルックナーです。よく私がスピーカーを選ぶときに使っているヨッフムのブル8をかけてみたところ、床に置いたときには第4楽章冒頭に登場するゾンダーマンの強烈なティンパニがとてもクリアに、そして強力に炸裂しました! う、うれしい! 

 ありったけのCDをかけてみましたが、廉価なシステムのくせに、ソフトの善し悪しをはっきり出すことができるようです。もともとの録音がいい場合、目が覚めるような音で鳴ってくれます。例えば、私の愛聴盤、パレーの「幻想」がそうでした。

CDジャケット

ベルリオーズ
幻想交響曲作品14
録音:1959年11月
劇的物語「ファウストの劫罰」作品24:ハンガリー行進曲
歌劇「トロイアの人々」:トロイ人の行進曲
録音:1959年4月
序曲「海賊」作品21
序曲「ローマの謝肉祭」作品9
録音:1958年3月
パレー指揮デトロイト響
MERCURY(国内盤 PHCP-20404)

 パレーの代表録音として知られるこの「幻想」は、名録音で知られるMERCURYの中でもとびきりの1枚だと私は思っています。なにしろ、演奏が立派で、文句のつけようがありません。最近「幻想」はグロテスクであったり、怪奇であったりしなくてはならないような風潮がありますが、パレー盤は正攻法で真正面から曲に取り組み、オケの持てる力を存分に出して演奏した熱演中の熱演だと思います。合奏の切れ味優れ、乱れ・緩みがありません。そして音がいいんです。録音されたのは1959年。この録音を聴くと、ステレオ録音がこの頃既にほとんど極められていたとしか考えられませんね。低弦群の重低音やシルキーなバイオリンの音、フルートやオーボエの艶やかな音、繊細優美な音も見事に捉えられています。そして聴き所のひとつ、第3楽章最後のところに出てくる遠雷です。どろろろおおおおぉぉぉぉ...ん。すばらしい。単細胞な私は思わずニヤリとしてしまいます。このティンパニ、まるですぐ側にマイクがあったかのような音がします。MERCURYではそうした録音をしていないはずですが、どうやって収録しているんでしょうね。まさに神業としか言いようのない音がします。

 で、このオズとD-E01はこのティンパニもばっちり再現。今私がこの原稿を書いている6畳間でかっこよく響いてくれました。

 小型でお金もたいしてかからなかったので、高価な巨大システムを買ってくるのではないかと心配していた女房も大満足。オーディオはお金がかかるものだと思い込んでいた私にもとても良い勉強になりました。オーディオに精通するA氏に教えてもらって本当によかったです。すばらしい先生でしたね。本当に感謝しています。

:CDウォークマン「D-E01」はソニーのCDウォークマン発売15周年記念モデルらしいです。多分SONYが総力を挙げて作ったものなのでしょう。他のCDウォークマンと作りがかなり違うようです。最も特徴的なのは、CDをスライドさせてセットするところです。普通はふたが上に開いてCDを取り替えるのですが、これはスライドさせて入れ替えるのです。この部分だけは操作性が良いとはいえません。上手に入れないと、CDを傷つける場合さえあるそうです。音質は最高ですが、この点は私はやや不満です。ご参考まで。

 

2001年9月2日、An die MusikクラシックCD試聴記