コンセルトヘボウ管のページ

ベイヌム指揮コンセルトヘボウ管弦楽団ディスクレビュー
(コメントつき不完全ディスコグラフィ)
■ PART 1. 1954 − 1959 (PHILIPS) ■

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シャイーとコンセルトヘボウ管のディスコグラフィに続いて、ハイティンクの主要な録音暦をまとめてきましたので、次はエドゥアルト・ファン・ベイヌム先生を採り上げたいと思います。個人的には以前から
 (この人はただものではないかも…)
とひそかに注目していたベイヌム氏ですが、『シェエラザード』の超絶的名演奏を聴いてしまってからは真にリスペクタブルな存在として完全に別格扱いとなり、先生のグレイトな芸術を探究せんものと決意するに至りました。その手段としてはもちろん、世界的な文化遺産として我々に残された〔録音〕を、ひたすら聴き込むことから始めなければなりません。

 ベイヌム先生の詳細なディスコグラフィは、かつて『LP手帖』(後の『ディスクリポート』)という月刊誌の1980年1月号に浅里公三氏作成のものが掲載されていました。あるいはネット上では、たとえばここ(http://classicalcdreview.com/evb.html)やここ(http://www.dutchdivas.net/frames/conductors.html)に掲載されています。これをCD単位でまとめていき、簡単な感想を付けていこうというのが、本稿の企画意図であります。これによって、ベイヌム先生に対するみなさんの興味や理解が少しでも深まることを、期待して止みません。(そんなにリッパなもんでもないのですが…)

 では、放送用録音は後回しにするとして、商業用録音を新しい方(フィリップス等)から遡っていきましょう。先生の最後の録音はColumbiaレーベルなのですが、上記ディスコグラフィではPhilipsとなっており、いきなりハテナです。CDになっておらず入手できていない音源もたくさんあり、ベイヌム先生の研究はなかなか簡単には進まないのが難点です。

 以下、データ関係は原則としてCD本体の記載に準じました。掲載順序は原則として、CDショップの配列等でなじみのある〔作曲家名のアルファベット順〕としました。

 

■ PART 1. 1954 − 1959 (PHILIPS) ■

 

1950年に創設されたオランダ・フィリップス社のレコード部門は、1951年からコンセルトヘボウ管弦楽団の録音を開始しました。当初はケンペン、ドラティ、ヨッフムらの指揮者が起用されたのですが、1954年にベイヌムの契約がデッカからフィリップスに移ったらしく、同年5月以降、ベイヌムとコンセルトヘボウ管の商業録音はすべてフィリップスとなります。コンセルトヘボウ管そのものもフィリップス専属となったようで、デッカにおけるベイヌム以外の指揮者による録音もなくなり、ごく一部の例外を除いてヘボウのレコードはすべてフィリップス録音という状況が1970年代末まで続くことになるのです。その数少ない例外の一つが、ベイヌム最後の商業録音でした。

バッハ:管弦楽組曲第1番〜第4番

CDジャケットフルート:フーベルト・バルワーザー
録音:1955年5月31日〜6月2日(第2番/mono),1956年4月3日(第3番/mono)
CD:ユニバーサル UCCP-9371〔第2・3番のみ/国内盤「フィリップス秘蔵名盤シリーズ」(2001)〕

 第2番は早くからCD化されていたが、2001年に出たCDは第2番と第3番の組み合わせで、収録時間は42分。あと一曲入るはずだし、もしかすると全曲が一枚に収まるかもしれない。ユニバーサル・ミュージック社はどうしてこういうことをするのだろうか?

 演奏は極上。もちろん、楽器も編成も奏法も昔のスタイルで、「ピリオド」も「クリティカル・エディション」も無縁だった時代のおおらかな演奏だ。だからダメだと切り捨てるような学者やマニアが世の中には本当にいるのだろうか。音楽とはそういうものではないと思う。すっきりしたフォルムに典雅な音色、格調高く充実した響き、ベイヌム&ヘボウの魅力ここに極まれり。至福の時間を過ごすことができる。

 第2番で活躍する首席フルート奏者バルワーザーの木製フルートは、いわゆる古楽器とは違うものなのだろうか、素朴さと芳醇さが共存する音色には惚れぼれする。そして第3番の「アリア」の、この暖かく目の詰んだ手触り。学術的な研究成果を再現するための演奏などよりも、この方がはるかに魅力的だ。

 なお、第1番は第2番と、第4番は第3番と、それぞれ同一のセッションで録音された模様。早く聴かせてくれぃ。

J.C.バッハ:シンフォニア第2番+第4番

CDジャケットモーツァルト:フルートとハープのための協奏曲
モーツァルト:交響曲第29番
フルート:フーベルト・バルワーザー
ハープ:フィア・ベルフート
録音:1958年10月6,7日(シンフォニア/stereo),1956年5月25日(協奏曲/mono),1957年6月6日(交響曲/mono)
CD:Philips 462 525-2 〔輸入盤“Dutch Masters Vol.29”(1998)〕

 伊東さんのCD試聴記で早くから紹介されているCD。「シンフォニア」は、ブラームスの交響曲第1番とともに、フィリップスにおけるベイヌムの最後の録音となったもの。

 その「シンフォニア」、なじみのない曲なのにとても楽しく聴くことができる。陳腐な表現だが、心が洗われるような演奏だ。溌剌とした響きがチャーミングなモーツァルトも、とてもいい。滋味に富む一枚。

 協奏曲のみ2001年に国内盤でも出ており(UCCP-9366)、それには1957年6月6日の録音と記されている。ディスコグラフィとも照合すると、どうやら上記ダッチ・マスターズ盤の録音クレジットは、協奏曲と交響曲が逆転している模様。

ベートーヴェン:交響曲第2番

CDジャケット録音:1954年8月31日(mono)
CD:日本フォノグラム PHCP1263〜5 〔国内盤「コンセルトヘボウの名指揮者たち」(1992)〕

 スタジオ録音はこれ一曲だけというベイヌムのベートーヴェン交響曲。この録音が収録されたCDは3枚組の編集物だが、他にもベームやセルのモーツァルト交響曲(第26番と第34番)、コンドラシンの「英雄」などが収められた必携盤となっている。

 個人的にはベートーヴェン全交響曲中もっとも地味な曲だと思っている第2番が、ベイヌム的には貴重な録音であるというだけで、内容充実した聴き応え満点の大曲に感じられるのだから我ながら勝手なものだ。しかし実際にこの演奏は凄い。堅牢な石造の建築物の如きがっちりした構成感と、早めのテンポでオーケストラをグイグイとドライヴする躍動感が、絶妙に両立しているという印象だ。一糸乱れぬアンサンブルはいつものことながら驚異的ではあるものの、この表現の元ではさすがに芳醇な音色の魅力は抑えられ気味となっている。その意味でベイヌム&ヘボウとしてはやや異色の演奏だが、この曲の録音としてはベストを争うものではないだろうか。どうしてもっとベートーヴェンの録音を残してくれなかったのか…と切ない気分になってしまうのが難点。そういえば、世界9大オーケストラを振り分けたクーベリックのベートーヴェン交響曲全集(DG)でも、コンセルトヘボウ管に選ばれたのはこの第2番だった。ベイヌムのこの録音に敬意を表したのだろうか。

 なおこの曲は、ディスコグラフィでは1954年5月17〜29日のセッションでの録音となっている。またこのCDは、1996年にポリグラムから再発売されている(PHCP-3476/8)。

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番+第4番

CDジャケットピアノ:ロベール・カサドシュ
録音:1959年3月1,2日(stereo)
CD:Sony Classical 5033872〔輸入盤“CASADESUS EDITION”(2002)〕

 仏Sonyによる一連のカサドシュのリイシュー・シリーズの一枚として、2002年にCD化された。その際のCDショップのアナウンスによれば、

〔これは当時提携関係にあったアメリカCBS(現SONY)とオランダPHILIPSのバーターで成立した録音で、CBS専属のカサドシュが「皇帝」をPHILIPSに録音(ロスバウト指揮)する代わりに、PHILIPS専属のベイヌムがCBSのこの録音に登場して実現しました〕

とのことで、LP時代にもCBSソニーから国内盤が出ていたもの(13AC-399/1978)。

 ベイヌム&ヘボウのベートーヴェンは録音が少なく貴重なものだが、演奏はちょっとユニーク。交響曲第2番とはうって変わって、ベートーヴェンの剛毅で重厚な面よりも、どちらかといえば優雅な旋律美にスポットが当てられている。これは独奏者の個性を尊重して協奏しているものと思われ、ペライアの伴奏を務めたハイティンク&ヘボウと共通するものも感じられる。そういえばあれもSonyだったが、録音の傾向はかなり違う。リマスタリングのせいだろうか、高音がややキンキンしているのはいただけない。

ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲

CDジャケットヴァイオリン:アルテュール・グリュミオー
録音:1957年6月4日(mono)
CD:ポリグラム PHCP9655〔国内盤「永遠のグリュミオー1000」シリーズ(1998)〕

 1957年にもなってモノラル録音を続けていたのは、メジャー系ではフィリップスとDGくらいのものではなかろうか。しかしながら音質は十分に鮮明、かつヘボウの個性が十分に捉えられていて、ヘタなステレオよりよほど好ましい。

 冒頭のティンパニからしてすでにコンセルトヘボウの魅力が伝わってくる。中庸的なテンポ設定はグリュミオーの意図と思われ(なにしろガリエラ指揮ニュー・フィルハーモニア管との新盤と比べ演奏時間は10秒と違わない)、それも含めて、艶やかな音色で歌う独奏を最大限に盛り立てることにポイントが置かれているかのような印象。よって、交響曲第2番ほど個性的なベートーヴェンではないが、恰幅よく端正なサポートぶりは充実感のある素晴らしいものだ。

 ちなみに、1979年に出たこの曲のLPのジャケットは、指揮者ベイヌムのポートレート。「ベイヌム1300シリーズ」の一枚だったとはいえ、ベートーヴェンのこの曲で指揮者のアップ写真、独奏者の立場がない珍ジャケットかもしれない。

ブラームス:その1(フィリップス篇)

CDジャケットCDジャケットCDジャケット

a)交響曲第1番  録音:1958年10月6,7日(stereo)
b)交響曲第2番  録音:1954年5月17〜19日(mono)
c)交響曲第3番  録音:1956年9月24,25日(mono)
d)交響曲第4番  録音:1958年5月1〜3日(stereo)
e)ハイドンの主題による変奏曲  録音:1958年9月(stereo)
f)大学祝典序曲  録音:1958年9月25〜27日(stereo)
g)悲劇的序曲  録音:1958年9月(stereo)
h)ヴァイオリン協奏曲  録音:1958年7月3〜5日(stereo) 
i)アルト・ラプソディ  録音:1955年5月31〜6月2日(mono)
ヴァイオリン:アルテュール・グリュミオー(h)
アルト:アーフェ・ヘイニス/合唱:”アポロ”ロイヤル男声合唱団(i)
CD:Philips 462 534-2〔a・b・c・d/輸入盤“Dutch Masters Vol.30”(1998)〕
ユニバーサル UCCP-9053〔a・f・g/国内盤「PHILIPS GREAT RECORDINGS」(2001)〕
ユニバーサル UCCP-9054〔d・e・i/国内盤「PHILIPS GREAT RECORDINGS」(2001)〕
ポリグラム PHCP9631〔h/国内盤「永遠のグリュミオー1000」シリーズ(1998)〕

 b)はフィリップスにおけるベイヌムの初録音、a)は最後の録音となったものだが、ここではそれらを含めたベイヌムのブラームス録音をまとめた。デッカに録音されていた曲も多く、得意のレパートリーだったことが窺える。

 演奏も定評のあるものばかりで、a)やe)〜g)などはデッカ録音よりもややおとなしい表現となっている分、こちらの方がよりスタンダード的な演奏といえそう。冒頭から速いテンポで駆け抜ける交響曲第1番で、ここだけはスタンダードとはいいがたいのが第4楽章の最後の方で出てくる金管のファンファーレというかコラールの旋律。普通の演奏ではここぞとばかりテンポが落ちる部分だが、ベイヌムはそうしない。ここをガクっと外したコンドラシン&へボウ盤とは違う意味で、聴いていてギョッとする。しかし作曲者はここでテンポを落とせという指示などしておらず、ベイヌムはスコア通りに演奏しているだけなのだ。この客観性はすごいと思う。

 少し古風な管弦楽の音色と古色蒼然たる曲想とがマッチした交響曲第4番も、とてもいい。第4楽章の最初のほうの変奏で、弦や金管の薄い伴奏に乗って木管が静かに歌うあたり、他の演奏ではつい聴き流して部分だが、実に説得力がある。第3番は、録音当時は「ブラームスの英雄交響曲」などと言われていた時代だったせいかどうか、意外に剛毅な表情の演奏。ごぢんまりまとめるような演奏も多いが、個人的にはこの方が好ましいと思う。それにしても、この第3番や第2番はモノラル録音なのだが、深々とした響きがよく捉えられており、まったく不満を感じない。国内盤の「アルト・ラプソディ」にはちょっと物足りなさがあることからすると、輸入盤「ダッチ・マスターズ・シリーズ」はリマスタリングが(いわゆる技術的にというよりは音楽的に)優れているのだろう。

 「大学祝典序曲」は主旋律のみならず対旋律が律動しており、いきいきとした好演。これに比べると「悲劇的序曲」はやや平凡かも。ヴァイオリン協奏曲は、ベートーヴェンのそれと同傾向の演奏だ。

 CDについては、まずa)〜d)の交響曲全集がダッチ・マスターズ・シリーズで発売されているし、国内盤も1993年に出ていた。いずれも二枚組なので、他の曲のフィル・アップはない。e)〜g)の管弦楽曲とi)の「アルト・ラプソディ」は、2001年に発売されたa)とe)にそれぞれ収録されているが、モノラル録音のi)が1958年2月の録音とクレジットされており、これは間違いだろう。1988年に出た「レジェンダリー・クラシックス」シリーズでは1955年5月31〜6月2日の録音となっている。ただし同盤ではa)とe)の録音が1958年7月1〜5日とされており、これはh)と混同しているらしい。そのh)は、f)との組み合わせのCDも1993年に出ていた。a)とf)の組み合わせも、「ドリーム・プライス1000」シリーズや「エロクァンス」シリーズでおなじみだったもの。

ブルックナー:交響曲第5番+第7番+第8番+第9番

CDジャケット録音:1953年5月(第7番/mono/Deccaによるスタジオ録音),1955年6月6〜9日(第8番/mono),1956年9月(第9番/mono),1959年3月12日(第5番/mono/Radio Nederlandによるライヴ録音)
CD:Philips 464 950-2〔輸入盤“Dutch Masters Vol.57”(2000)〕

 フィリップスの「ダッチ・マスターズ・シリーズ」で発売された、4枚組のブルックナー交響曲選集。同シリーズの日本での価格は、初期の割高な設定が徐々に下方修正され、このボックスは超格安の廉価盤だった。第8番と第9番がフィリップスの商業用録音で、第7番はデッカの録音。これらはそれぞれのレーベルからCD単売されていたもの。また第5番は、4月13日に亡くなったベイヌムの最後の録音とされるもので、これは放送局による実況録音なのだが、LP時代にもフィリップス・レーベルとして発売されていた(13PC-176〜7/1979)。その当時の宣伝カタログには〔オリジナル版〕と記載されている。

 ベイヌムのブルックナーはこの他に第7番の旧録音と第4番のライヴ録音があり、それらを含めてすべてが素晴らしい。全体にテンポが速くて颯爽としており、重厚壮大、悠久幽玄な正統的ブルックナーとは違うのかもしれないが、そういうのが少しばかり苦手な当方にも、実におもしろく聴くことができる。ある意味たいへんモダンな表現で、楽曲のポイント、エッセンスを簡潔かつ明晰に打ち出しているという印象。そっけないようでいて、物足りなさはない。ベイヌムの長所が最大限に発揮されていると思う。オーケストラがまたよくて、変な表現だが、音の出方にモタモタしたところがまったくなく、〔打てば響く〕みたいな反応のよさ。こういうのを〔自発性が発揮されている〕というのだろうか。

 録音はいずれもモノラルだが鮮明で、その演奏の個性やオーケストラの音色を楽しむのに不足はない。

ドビュッシー:夜想曲+海+映像

CDジャケット合唱:アムステルダム音楽院女声合唱団(夜想曲)
録音:1957年5月27,28日(夜想曲,海/stereo),1954年5月24,25日(映像/mono)
CD:Philips 462 069-2 〔輸入盤“Dutch Masters Vol.4”(1997)〕

 「夜想曲」と「海」は、同時に録音された「英雄的な子守唄」「スコットランド行進曲」とともに、ベイヌムの最初のステレオ録音となったもの。翌月録音のベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲やモーツァルトではまたモノラルに戻っており、過渡期だったと考えられる。しかしCDで聴く限り、不安定や不自然な部分などない、しっかりしたステレオ録音となっている。

 演奏もたいへん魅力的で、〔コンセルトヘボウのドビュッシー〕の独特の個性を、ハイティンク盤以上に楽しむことができる。CDブックレットにはLPのオリジナル・ジャケットが掲載されていて、黒白の印刷ながらパステル調の明るい色彩を感じさせる入江のスケッチ画なのだが、演奏の方はもうちょっと曇天のイメージ。木管のコクのある音彩を中心に、全体がほの暗い色調で統一されていて、実に趣き深い。何かの本に「海に沈む巨大なオルガンが荘厳な調べを奏でているような威容」と書かれていたが、うまい表現だ。モノラルの「映像」は木管の音色がさらに魅力的で、「イベリア」の煌びやかな響きも楽しい。そしてスタイリッシュな全体のフォルムは実にモダンな雰囲気であり、50年も前にこれほどのドビュッシーが演奏・録音されていたという事実は、驚愕ものではなかろうか。

 CDはダッチ・マスターズ盤のほか、オーストラリア・ユニバーサルの「エロクァンス」シリーズでも同じ選曲のものが出ている。このシリーズには他にもハイティンク指揮のマーラー「嘆きの歌」がラインナップされており、要注目。

ディーペンブロック:テ・デウム

CDジャケット録音:1956年10月7日(mono/ライヴ録音)
CD:番号なし〔輸入盤“netherland music - CONCERTGEBOUW ORCHESTRA”(1988?)〕
MN Classics(Q Disc) 97015 〔輸入盤“Live-The Radio Recordings”(2000)〕

 オランダの作曲家ディーペンブロックによる合唱曲。ベイヌムとコンセルトヘボウの25周年を記念するシルバー・ジュビリー・コンサートをフィリップスが録音したもの、らしい。後述する二種類の放送音源集に収録されているのだが、いずれもフィリップス録音である旨が明記されている。しかし各ディスコグラフィには記載がなく、謎の音源だ。

 曲そのものはトランペットのファンファーレで始まる親しみやすいもので、いかにも記念コンサートにふさわしい。メンゲルベルクやマーラーとも親交があったというディーペンブロックだが、この曲は「ブルックナー的要素を多く持つ結果となった」と解説書に書かれている。

ヘンデル:水上の音楽(クリュザンダー版)

CDジャケット録音:1958年7月1〜5日(stereo)
CD:Decca 464 080-2 〔輸入盤“LA COLLECTION CLASSIQUE”シリーズ(1999)〕

CDジャケット 仏デッカの廉価シリーズの一枚。音源はフィリップスだが(左写真)、CDにもデジパックのジャケットにもデッカのマークしか付いておらず、デッカに吸収されたフィリップスの悲哀を感じずにはいられない。組み合わせはバッハの管弦楽組曲第2番で、このカプリングのCDは1988年の「レジェンダリー・クラシックス」シリーズでも出ていた。LP時代には1979年の「ベイヌム1300」シリーズで発売されたが、それはこの全曲盤19曲から13曲を抜粋したものだった。

 バッハ同様、大編成のモダン・オーケストラによるオールド・スタイルの演奏だ。今となっては学術的に正しくないのかもしれないが、滋味あふれるこの魅力を前にすればそんなことはどうでもよくなってしまう。全体としては端正でありながらも、溌剌とした弦楽、渋く輝くトランペット、そして夢見るようなホルンの響きの美しさ…。ただただ〔素晴らしい音楽〕というほかない。

ヘンケマンス:ヴァイオリン協奏曲

CDジャケットヴァイオリン:テオ・オロフ
録音:1954年5月21,22日(mono)
CD:番号なし〔輸入盤“netherland music - CONCERTGEBOUW ORCHESTRA”(1988?)〕

 11人の指揮者とコンセルトヘボウ管が演奏する17曲のオランダ現代音楽が収められた四枚組のCDに収録。これは詳細不明のCDだがブートレグではなさそうで、ジャケットにはペディメント(破風)の部分に100という数字が印刷で合成されたコンセルトヘボウのファサードがデザインされているため、1988年の創立100周年に合わせて制作されたものと思われる。ほとんどはラジオ局による放送用録音だが、この曲だけはフィリップスの音源が流用されている。

 四楽章構成、25分ほどの楽曲。他の演奏では聴いたことがないので、あまりおもしろくないのは演奏のせいなのかそういう曲だからなのか、判断しにくい。

マーラー:大地の歌+さすらう若人の歌

CDジャケットメゾソプラノ:ナン・メリマン,テノール:アーネスト・ヘフリガー
録音:1956年12月3〜8日(mono)
CD:Philips 462 068-2 〔輸入盤“Dutch Masters Vol.3”(1997)〕

 フィリップスへのマーラー録音はこれだけしかなく貴重なもの。ホルンをはじめ、オーケストラの音色がまったくもって素晴らしい。渋く輝くような落ち着いた色調でありながら、コクのある芳醇さもたっぷりで、これがクドさのないストレートな表現の指揮と絶妙な関係を築いている。40年後のショルティ盤と比較すれば、やはりコンセルトヘボウの絶頂期がこの時代だったという事実は、残念ながら否定できないだろう(といって今がダメというわけではないのだが)。

 なおコンセルトヘボウ管は同曲をこの6年半後に、ヨッフムの指揮で珍しくDGに録音している。その独唱者はメリマンとヘフリガーで、このベイヌム盤とまったく同じだった。

 「さすらう若人の歌」では、2曲目を聴きながらベイヌム&ヘボウの交響曲第1番「巨人」を想像するという楽しみ(妄想?)に浸ることができる。

 「大地の歌」はLP時代にフォンタナ・レーベルの「グロリア・シリーズ」で出ていた(FG-303)。

ラヴェル:ボレロ+ラ・ヴァルス/ドビュッシー:英雄的な子守唄+スコットランド行進曲

CDジャケット録音:1958年6月30日(ボレロ/stereo),1958年9月26日(ラ・ヴァルス/stereo),1957年5月27,28日(ドビュッシー/stereo)
CD:Decca 464 095-2 〔輸入盤“LA COLLECTION CLASSIQUE”シリーズ(1999)〕

 仏デッカの廉価シリーズの一枚。「フランス音楽名曲集」と題された一枚で、他にはフルネ指揮の「魔法使いの弟子」「狂詩曲スペイン」「牧神の午後への前奏曲」、ハイティンク指揮の「死の舞踏」が収録され、ヘボウによるフランス音楽集ともなっている。

 聴きものはもちろん「ボレロ」で、コンセルトヘボウ管が芳醇な音色を誇っていた時期の録音だけに、その後のハイティンク盤やシャイー盤とは異なる魅力を楽しめる。とにかく管楽器の音彩が濃く、バックに回ってボレロのリズムを刻む伴奏陣が目立ちすぎているほどだ。ただ、「ラ・ヴァルス」も含め、ベイヌム&ヘボウの独特の重厚さのせいで、ドビュッシーほどには成功していないようにも感じる。

 なお「英雄的な子守唄」は、1993年の「DUO」シリーズの「ドビュッシー/管弦楽作品集」にも収録されていた(他の曲はすべてハイティンク指揮)。哀愁の込められたトランペットの旋律が、やや翳りのある音色とぴったりマッチしており、味わい深い演奏だ。

シューベルト:交響曲第3番+第6番+第8番「未完成」

CDジャケット録音:1955年6月6〜9日(第3番/mono),1957年5月22〜25日(第6番、第8番/mono)
CD:Philips 462 724-2 〔輸入盤“Dutch Masters Vol.38”(1998)〕

 世間で話題にならないのが不思議なほどの名演奏。爽快なテンポでキビキビと進行するすっきりした表現が、たっぷりとしたふくよかな響きによってドライになることなく、絶妙に仕上がっている。理想的なシューベルトではなかろうか。ふだんあまりなじみのない第3番や第6番が、たまらなくいい曲に思えるのだ。また「未完成」では、第1楽章の提示部がリピートされている。この当時の録音としては珍しい。

 1957年録音の第6番と第8番がオリジナル・カプリングで、同年の初出LPのジャケットがCDブックレットに掲載されている。第3番は、同一セッションで録音されたメンデルスゾーンの交響曲第4番との組み合わせだったらしい。

スーザ:星条旗よ永遠なれ

CDジャケット録音:1958年9月(stereo)
CD:Philips 462 105-2 〔輸入盤“Dutch Masters Vol.41”(1998)〕

 “Meesterstemmen”、すなわち「巨匠の声」と題された異色のCDに収録された、異色の録音。このCDはダッチ・マスターズ・シリーズに登場する面々の肉声(インタビュー録音の断片)と音楽(全曲若しくは一部)で構成されたもの。冒頭12分ほどはベイヌムに充てられており、いきなり登場するのがスーザのこの曲(全曲収録)。そのあとベイヌムのインタビューとなり、次にJ.C.バッハ「シンフォニア」の一部と別のインタビューが続き、最後にヘンデル「水上の音楽」の中の一曲が収録されている。他の人たちはいずれも一曲ずつなので、ベイヌムは破格の扱いを受けているのだが、残念ながら会話の内容は皆目わからない。

 これは実に妙なスーザだ。音色に渋い陰影がある分、あっけらかんとした明るい響きとはとてもいえないし、強弱のつけ方やアクセントも独特で、ショルティ&シカゴ響の輝かしい爆演(Decca)とはまるで異なる味わい。二つのメロディが重なる終結部のバランスもまたユニーク。珍品だ。それにしてもどういう経緯でこの曲が録音されたのだろうか。

“GREAT CONDUCTORS OF THE 20TH CENTURY EDUARD VAN BEINUM”

CDジャケットa)ニコライ:「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲   録音:1956年4月10日(mono)
b)トーマ:「ミニヨン」序曲  録音:1956年4月10日(mono)
c)リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」  録音:1956年5月22〜29日(mono)
d)シューベルト:交響曲第6番  録音:1957年5月22〜25日(mono)
CD:IMG Artists 7243 5 75941 2 7〔輸入盤(2003)〕

 おなじみ「20世紀の偉大な指揮者たち」の一枚。現時点で国内盤は出ていない模様。上記のフィリップス音源の他に、デッカ音源と放送音源が収録されている。c)については別稿で採り上げたため、ここでは割愛。またd)はダッチ・マスターズ・シリーズで出ているものと同一。

 残る二曲の序曲は、演奏内容を分析するような曲ではないのかもしれないが、響きが重厚すぎるわけでもないのになんともいえぬ風格を感じさせるあたり、やはり名演というべきなのだろう。そして、コンセルトヘボウ管の名技と音色の、なんと魅力的なことか。カッチリと芯があるのに甘くとろけるような馥郁たるこのサウンド。まさに〔ビロードのような〕弦。管の絶妙な歌いまわし。池波正太郎作品の登場人物なら、
(ああ…もう、たまらぬ、まったくもって…これは、たまらぬ…)
などと言うところだ。

【未CD化のため未聴の音源】

・バルトーク:弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽
 録音:1955年10月(mono)
・ベルリオーズ:「ローマの謝肉祭」序曲
 録音:1956年9月(mono)
・グリーグ:二つの悲しい旋律
 録音:1958年5月(strero)
・コダーイ:「ハーリ・ヤーノシュ」組曲
 録音:1956年4月(mono)
・メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」
 録音:1955年6月2〜4日(mono)
・モーツァルト:セレナード第9番「ポストホルン」
 録音:1956年5月(mono)
・モーツァルト:クラリネット協奏曲
 録音:1957年5月(mono)
・パイパー:管弦楽のための6つのエピグラム、ピアノ協奏曲
 録音:1954年5月(mono)
・シベリウス:交響詩「フィンランディア」、悲しいワルツ
 録音:1957年6月(mono)
・ストラヴィンスキー:「火の鳥」組曲、ナイチンゲールの歌
 録音:1956年4月,5月(mono)
・チャイコフスキー:「くるみ割り人形」組曲
 録音:1958年5月(stereo)

【フィリップスとエピックの関係について】

ベイヌムの録音には国内盤・輸入盤とも、未CD化のものはもちろん、LPがずっと廃盤のままCD時代を迎えてしまったものも多いようだ。そのため、文献等で過去のディスクを調べるとずいぶん古そうなレコード番号が出てきたりするのだが、特に混乱させられるのはレーベル名で、1953年以降の録音のLPにおいて〔フィリップス〕〔フォンタナ〕〔エピック〕が混在している。

 このうち〔フォンタナ〕は、「グロリア・シリーズ」などの廉価シリーズに対して冠せられたもので、フィリップスやマーキュリーの音源で構成されていた。「グロリア・シリーズ」は1980年代まで発売されていたので、これはおなじみのものかもしれない。またフォンタナはポップス方面でも、フィリップスの傍系レーベルとして使用されていた。

 ややこしいのは〔エピック〕。これについては『レコード芸術』誌で連載されていた「証言/日本レコード史 戦後篇」の第20回(1995年1月号掲載)で少し解説されている。エピックとは蘭フィリップスのアメリカでの窓口で、米コロムビア(のちのCBS SONY)がフィリップスと提携して作ったレーベルとのこと。日本ではコロムビア系列の日蓄工業からエピック・レーベルとして発売されていたが、1960年には本来のフィリップス・レーベルでビクターから発売されるようになったため、日蓄がエピックを出していたのは1956年からの5年足らずだったらしい。

 ベイヌム&ヘボウのフィリップス録音の国内盤は、1957年にバッハの管弦楽組曲全曲とコルサコフの「シェエラザード」がエピックとして発売されたのが最初で、これらはその後フィリップスとして(すなわちビクターまたは日本フォノグラムから)再発されたようだが、ベートーヴェンの交響曲第2番やストラヴィンスキーの「火の鳥」などの国内盤は、エピック時代に出たきりらしい。

 ちなみに、当時はフィリップスの音源がまだ弱体だったため、米コロンビアはエピック・レーベルの強化のため、セル&クリーヴランド管の録音をエピックに繰り入れたという。


(An die MusikクラシックCD試聴記)