シュターツカペレ・ドレスデン来日公演2009

文:伊東

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プログラム2009

ファビオ・ルイジ指揮シュターツカペレ・ドレスデン

4月29日(水)、サントリーホール

プログラム

  • R.シュトラウス:交響詩「ドンファン」 作品20
  • R.シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」 作品28
  • R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」 作品40

アンコール

  • ウェーバー:「オベロン」序曲

コンサートマスター:ローラント・シュトラウマー

 

 

 

 オール・R.シュトラウス・プログラムというシュターツカペレ・ドレスデンファンにとってはたまらない演目の一日でした。

 オーケストラは2年前に来日してマーラーの交響曲第2番「復活」を演奏した同じ団体とはとても思えないほど技術的な向上を示していました。音量もアップしてR.シュトラウスのスペクタクルを最大限に演出してくれました。特に金管楽器はすごい。よほど鍛えられたのか、猛烈な迫力です。「うまくなったなあ」というのが何度もこのオーケストラを聴いてきた一ファンの感想です。ほとんどそのままCD化できそうな立派な演奏内容だったと思います。

 ルイジは「英雄の生涯」の終結部を原典版で演奏しています。CDで初めて耳にした際にはやや違和感を感じたものですが、コンサートで聴いてみると落ち着きも良く、意外としっくり来ていました。終演後は盛大な拍手とブラボーの嵐。大変満足度の高い公演でした。

 

 

 

 ・・・と、ここまで書いて終わらせるのがベストだと思うのですが、備忘録として私のコメントを以下に残しておくことにします。

 多分、ルイジはシュターツカペレ・ドレスデンのシェフに就任後、このオーケストラを鍛え抜いたに違いありません。最優先の業務目標として「アンサンブルの強化」を挙げているのではないかとも思われます。そのくらいオーケストラの技術は向上していました。

 しかし、それで喜んでいる訳にはいきません。今のところはルイジが求めたであろう技術の向上と引き替えに失ったものもあるような気がします。この団体らしさです。単純に正確性や音量で勝負するならアメリカのオーケストラに勝つことはできません。ルイジはオーケストラを鍛えて、R.シュトラウスを立派に演奏して見せましたが、これだけなら別にシュターツカペレ・ドレスデンでなくてもいい。このオーケストラらしさ、このオーケストラにあったローカル色は薄くなってきたように思えます。例えば、このオーケストラの秘密は微妙な「ずらし」にあったりするわけですが、ルイジはそうしたものを嫌っているかもしれません。

 ルイジはオーケストラを鍛え、細かい指揮をして自分の思うように演奏をしたと思いますが、意外なことに彼の目指す音作りは、アメリカ的なのではないかと私は仮説を立てています。

 もう一つの仮説があります。SONYから順次発売されているルイジのCD、正確に言うとSACDの音は、SACDという現在望みうる最高のフォーマットであるにもかかわらず、隙間風が吹いているような音質で毎回私を落胆させています。明るく、透明感があり、実にすっきりしています。それを聴いて、「オーケストラの音がこんなに薄っぺらいもののはずがないだろう、本当のカペレの音から逸脱するのも甚だしい」と私は考えてきました。しかし、あの音作りは、他ならぬルイジが目指すところと合致しているのではないかと思っています。そうでなければ、録音に承認が下りるわけはありません。あの音作りを指揮者が望んでいると考えれば、一連の録音の音作りがなぜああなったのか簡単に説明がつきます。

 今日のコンサートで驚いたのは、R.シュトラウスの時の音とアンコールで聴いた「オベロン」序曲の音、特に弦楽器がまるで違って聞こえたことです。もしかしたらアンコールは指揮者もオーケストラに自由を与えているのかもしれません。伸びやかに、しなうように歌う弦楽器の音は もしかしたら 指揮者にがんじがらめにされていたR.シュトラウスとは違ったものであった可能性があります。

 良くも悪くも、今のシュターツカペレ・ドレスデンはルイジのもとで大きな過渡期にあるような気がします。あと2年後くらいに今の水準からさらに一歩も二歩も踏み出した世界にいることを期待してやみません。

 

(2009年4月29日、An die MusikクラシックCD試聴記)