ドレスデン・フォトギャラリー その3
ホールとオケ

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ホールとオケ

 

(付録)1999年12月19日付What's New?

 バブル以降の日本には立派な音楽ホールが建ち並ぶようになりました。どんな町にも贅を尽くした音響効果抜群のホールがあるようです。しかし、贅を尽くしたホールを造ったところで、箱を埋める優れたオケや聴衆がいなければ話にもなりません。

 私見ですが、欧州には優れたホールが今の日本ほどにはないような気がします。世界的に名高いアムステルダムのコンセルトヘボウやウィーンのムジークフェラインザールは例外に当たるかもしれません。外観は立派でも音響は必ずしも立派とは言えない場合もあるようです。しかし、それを埋める優れたオケも聴衆も存在するのですから、どちらがいいか考えるまでもないかもしれません。

 コンセルトヘボウの場合は、木の素材感を活かした信じがたいほどすばらしい音響を味わえます。全く驚嘆すべきホールであります。私はアムステルダム・コンセルトヘボウ管をシュターツカペレ・ドレスデンの次に愛好しておりますが、それはあのホールの響きが忘れられないからでもあります。あのようなホールがあれば、練習中からお互いをよく聴き合い、優れた演奏を生み出すことが可能になるに違いありません。やや凡庸な指揮者を長期にわたって首席の地位に戴きながらも世界最高水準の技術を維持できたのは、あのホールのもつ最高の響きによるところが多いのではないかと私は考えています。

 ここで不思議になるのは、シュターツカペレ・ドレスデンの音色です。独特の美しい音色で知られるカペレですが、優れたホールに恵まれたという話は聞いたことがありません。1984年に総額250億円もかけて再建されたゼンパー・オパーも音響は第一級と言われたことはかつて一度もないはずです。しかも、ゼンパー・オパーが再建される前までは、カペレはクルチュア・パラスト(文化宮殿)という建物でコンサートを開いていたのです。が、これは音響効果を云々する以前のホールなのです。

 
クルチュア・パラスト

クルチュア・パラスト外観
(写真提供:斉諧生さん)

かつてはトラバントといわれるプラスチック製の東ドイツ車がたくさん走っていたドレスデンですが、今やそうした車を見ることはできなくなっているようです。

 

 日本でいえば、○○市公会堂といったところか。なお、この写真では実物よりも50%増しでよく見える。ところで、共産主義諸国はどうして「文化(クルチュア)」という言葉を好んだのだろうか?

 これは旧東ドイツの首脳部が共産主義の大会などを開催するために作ったようなホールで、音響の悪さは折り紙付きです。その証拠に、クルチュア・パラストではコンサートの時に、無様な反響盤を舞台の左右に並べ、少しでもオケの音が聴衆に届くように涙ぐましい努力をしているのです。私が不思議に思うのは、それほど劣悪な条件のホールを使用していながら、なぜカペレが類い希な音色を維持できたのかということです。「ドレスデンの音楽大学出身者が多く、奏法をはじめ、伝統を上手に伝承してきたからだ」ということが答えのひとつとして挙げられますが、それだけではあの音色を維持できないのではないかと思います。優れたホールなしに最高の音色を維持してきたシュターツカペレ・ドレスデンは、もしかしたら、現代の奇跡なのかもしれません。

 

1999年12月19日、An die MusikクラシックCD試聴記