短期集中連載  An die Musik初のピアニスト特集

アルフレッド・ブレンデル
―誤解を受け続けているロマンティスト―
《真のブレンデルの魅力を探るディスクの紹介》

語り部:松本武巳

ホームページ WHAT'S NEW? CD試聴記


 
ブレンデル写真
松本さん所有のブレンデル写真。直筆サインがある。

第1回

ペトルーシュカ(2004/8/3)

第2回

シューベルト ピアノソナタ第21番(2004/8/7)

第3回

リスト編曲「オペラ・パラフレーズ」(2004/8/13)

第4回

シューマン「クライスレリアーナ」(2004/8/16)

第5回

唯一のショパン録音(2004/8/24)

第6回

ブラームスの2曲の協奏曲(2004/9/2)

第7回

リスト「孤独の中の神の祝福」(2004/9/5)

第8回

ベートーヴェン「ディアベッリ変奏曲」 (2004/9/11)

第9回

ベートーヴェン「皇帝」(2004/10/6)

第10回

ベートーヴェン「ハンマークラヴィーア」インデックス(2004/10/20)
第10-1

第1部「ピアノ演奏法」に対する大いなる誤解に関するメモ書き(2005/3/2)

第10-2

第2部「ピアノ演奏の視点から捉えた西洋音楽史概略」
『前編』 (2005/3/5) 『後編』(2005/3/15)

第10-3

第3部「ブレンデルに繋がるピアニストの系譜」(2005/5/23)

第10-4

第4部「ベートーヴェンのピアノソナタ」覚え書き】

第10-5

第5部「ハンマークラヴィーアソナタ」の基本的楽曲分析(2009/1/13)

第10-6

第6部「ブレンデルの4回目で最後の録音」の試聴記(2007/7/18)

第11回

−余韻あるいは惜別として−(2009/1/13)

 

■ この企画について(文:伊東)

 

 この企画は私が松本さんに特にお願いして成立したものです。An die Musikの読者の中には、私がかつてブレンデルのベートーヴェンについて、「ベートーヴェンの息吹があまり感じられない」と表現したことがあるのを覚えていらっしゃっる方も多いでしょう(2000年1月20日付「WHAT'S NEW?」ご参照)。私はブレンデルのシューベルトやモーツァルトを愛聴はしますが、必ずしもベートーヴェンを好んで聴いてきたわけではありません。しかし、松本さんはことあるごとにブレンデルのベートーヴェンを絶賛されます。

 松本さんはピアニストでもあり、ピアノ演奏を演奏家としての視点からも、リスナーとしての視点からもとらえることができます。さらに、松本さんはピアノという専門に埋没することなく、オーケストラ曲から声楽曲まで造詣が深い方でもあります。そうした方が絶賛するピアニストをもう少し詳しく知りたいと思いついたのがこの企画の端緒です。そもそもは「松本さんが考えるブレンデルの代表盤をいくつか教えて下さい」といったやりとりがあった程度でした。

 しかし、こうして企画がスタートしてみると、音楽にもっと真剣に接しなければならないと思われてきます。有意義な内容になると思われますので、皆様、ぜひご覧下さい。

  ■ ブレンデル特集について(以下 文:松本さん)
 

■ しかし、なぜピアニストの特集が組まれるのか?

 

 この点は、私も気になりましたので、伊東さまに確認をしました。今回はAn die Musikの過去との整合性を破棄してでもこの特集を望まれる、とのご回答でした。伊東さまにどういう経緯が存在し、この企画に至ったかは、このご回答をもって再度のご質問はしないことにいたします。

 

■ この特集の成り立ちと真意

 

 伊東さまとの会話を通して私が気づいたことは、伊東さまは自らの言語で語る演奏家や評論がお好きである、という事実に他なりません。他人の表現技法や発言の受け売りでは決して無い、強い主張(もちろん、単なる自我の表出ではなく、音楽や言語を通じて自己の主張を論理的破綻なく、かつ説得力豊かに表現すること=相手の結果的な賛否は原則として問わない)を常に期待し、また実践されておられることです。従って、伊東さまが執筆者としてお選びになられている人選の基準もまた、伊東さまの絶対に譲れないとされる部分は、一般的に優秀な論文作成能力とはほとんど全く異なった部分にほかなりません。それが結果として、多くの執筆者が同居するAn die Musikならではの魅力を発散しているものと、執筆者の一員として自負を共有するものでもあります。

 

■ よりによってブレンデルとは…

 

 この質問も当然の質問として浮上すると思います。しかし、この質問につきましては、伊東さまに代わって私から代弁したいと存じます。

  1. 世評自体は非常に高いが、どちらかというと、ネットでの評判は悪い傾向での批評が目立つ。
  2. 高い世評も、非常に一面的な評価に留まっており、しかもその世評は、ブレンデルの真の名誉にはなっていないのでは、と考える。
  3. ピアノ演奏の王道を歩むブレンデル、との評価が評論家に多いにもかかわらず、ネットでの評判は、むしろベートーヴェンの演奏に対する批判が強い。
  4. ブレンデルの評価を貶める原因の一つに、昔、VOXレーベルや、VANGUARDレーベルに膨大な録音を残したことを、いまだに録音自体の評価とは違った側面から批判する向きが強い。
  5. 彼の多くの著作や、自らのライナーノーツの執筆と、彼の分厚い眼鏡をかけたインテリ臭い顔で、ブレンデルの音楽性が表面的に評価された嫌いが強くある。
  6. 意外なほど、彼自身の演奏会(ピアノ独奏のリサイタル)に出かけて、彼の実演に接した上での評論が数少ない。
  7. 結果的に、経歴や容姿を含め、あらゆる部分で彼ほど、多くの録音や著作があるにもかかわらず、誤解に満ちた演奏家はいない。

 このような現状が、ブレンデルを取り巻いている環境ではないかと思っています。私が、以前からブレンデルを肯定的に論じる書き込みを、意外に多く「掲示板」にしたためたために、伊東さまが私に、このような執筆を依頼されたものと思います。また、一方、私がピアノを若干演奏するために、オーケストラを聴くのとは違った視点で、ブレンデルを書けるものと期待してくださったのかも知れません。

 

■ この連載で私がこだわること

 

 それは、ひとつには、ブレンデルを世評=プロの評論家の高い世評とアマチュアの否定的な世評の両方=とは決定的に異なった視点から書くこと。ふたつには、ブレンデルの真の魅力の部分を、自らの言葉で伝えること。これは、結果として、ブレンデルの一般的な代表盤の紹介や評論にはなりえないことに直結するであろうが、それを厭わないこと。みっつには、ピアノを弾くという視点からの発言を、この特集に限り挿入すること。つまり、聴き手としてのスタンスのみからの評論にしないこと。弾く視点からの評論が、素人のためのホームページとしてのAn die Musikのこだわりを決して侵犯するものではないと、この特集に限って言えば信じております。最後に、しかしながら、専門用語の使用は出来る限り避け、専門家のための評論には絶対にしないこと。要するに、ピアノが全く弾けない読者でも理解可能な範囲でしか、専門的な分析等はしないこと。以上のこだわりを持って、この企画を始めたいと思っています。

 

■ 取り上げるディスクの予定

 

1.

シューベルト ピアノソナタ第21番D.960(2種類のフィリップス録音)

2.

ベートーヴェン

ピアノソナタ第29番Op.106(デジタル録音の方)
インデックス

3.

ベートーヴェン ディアベッリ変奏曲(フィリップスへの70年代ライヴ)

4.

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」(4つの正規録音の比較)

5.

ショパン ポロネーズ「4番〜7番」(VANGUARD)

6.

シューマン クライスレリアーナ(フィリップス)

7.

リスト オペラ・パラフレーズ集(VOX)

8.

リスト 詩的で宗教的な調べ第3番「孤独の中の神の祝福」

9.

ブラームス ピアノ協奏曲(2種類のフィリップス録音)

10.

ストラヴィンスキー ペトルーシュカからの3楽章(VOX)
その他、適宜、取り上げる必要性が生じた録音。
 

(2004年8月2日-2009年1月13日、An die MusikクラシックCD試聴記)